光の風 〈波動篇〉-13
「この場所は分かっていた。だけど鍵が見つからなかった。火の力を持つ火神、貴方が鍵だった。」
握られた手と、向けられた想いと視線が痛い。強い意志が瑛琳には宿っている、日向はその思いに体の自由を奪われたようだった。
やがて手は離され、瑛琳は千羅の傍に戻った。二人には本当に心の底から安心と喜びを感じている。
「本当なら今すぐにでも向かいたいが…まずはリュナの意識が戻らなければ。」
「そうね。」
完全においてけぼりになった日向は黙ってその様子を見ているしかなかった。再び瑛琳は彼の方を向き、千羅の傍から離れずに言葉を放つ。
「日向。もう少しだけ私達につきあってくれない?貴方の力が必要なの。」
また強い眼差し。日向は押されるような形で頷いた。感謝するという瑛琳の言葉が胸を打つ。お礼など言われる義理もないのだ、日向にだって留まりたい理由がある。
「あの、火の力を持つ火神って何ですか?あなた達は誰?」
「あなたと同じ御剣よ。」
「御剣?って何ですか?」
日向の言葉に二人は固まりお互いの顔を見合った。まさか、そうなのだろうかと。
「お前、御剣知らないのか?」
「知らない…何も分からないんです。僕は自分の事が分からない。」
真っすぐに向けられた思いと視線、日向の目はとても嘘を言っているようには見えなかった。
予想もしない事態に瑛琳も千羅もとまどいを隠せない、もう一度お互いの顔を見合った。
「どういう事なの?あなたは炎の精霊を連れているのに。」
「祷とは最近会ったばかりなんです。僕には…記憶がない。」
次々と明らかになる衝撃の事実に瑛琳と千羅はただ、その告げられる事実を受け入れるしかなかった。まさか、鍵だった彼が何も知らない御剣だなんて。
「話は長くなりそうだ。とにかく外に出よう、ここは少し冷える。」
千羅の提案に瑛琳も日向も頷いた。ゆっくりと足を進め暖かい日の光へと向かっていく。
少し気持ちを落ち着かせて頭を整理しなければ。きっとこの話はそう簡単には終わらない。一つ終わればまた何かが生まれていく。
溜め息を吐きたくなるような気持ちを押さえて千羅は前を見た。焦っても苛立っても何もならない、出来るのはただ前に進んでいくだけ。
やっと手に戻した無くした欠片、確実に動いている。ただ今を受け入れて前に進んでいくだけ。