butterfly-5
「まあ、ボチボチ……そっちは?」
「やってないよ。もっと稼げるとこあるし」
「え、なに?……ヤバイ系?」
大して興味はなかったが、乗ってやった。
私の反応が嬉しかったのか、彼女は身を乗り出してきた。
「キャ・パ・ク・ラ……。どうせなら、いっしょにやらない?あんただったら口きいてあげられるし……せっかくイケてるのに勿体無いよ。」
報酬は魅力的だったが、煩わしさが先に立つ。ギスギスしたところは苦手だった。
「いいよ、人間関係たいへんそうだし……前で懲りているから」
「全然、大丈夫。良い人ばっかりだから」
友人はやけに熱心だった。身振り手振りをまじえてくる。
落ち着きのないのはあいかわらずで、傍を行き交う人がチラチラと、こちらを見ていく。
「私紹介したら、マージンいくら入るの?」
そう言ってやりたかったが、やめた。
彼女の饒舌はつづく。私はあまりのしつこさに閉口した。
なんとか話を打ち切るタイミングを計っていたところへ、彼女の肩の見慣れないブランドもののバッグが目に入った。
「それ可愛いね。どこで買ったの?」
「え……」
彼女はいきなりの話題の変更に面食らった。私は構わずたたみかける。
「そういえばさ、●◆の新作出たって。今度見に行こうよ」
「おおっ、いいねえ」
ブランドは買うのも、語るのも好きな友人は話に乗ってきた。
ようやく気疲れする立ち話から解放される。私はさりげなく彼女に歩くよう促した。
この同級生には、いま一度あの件に関して言い含めておく必要があった。
どうせ、つきあいは卒業するまで。そう割り切っておけば害はない。
私は友人との会話を適当に切り上げて、家路を急いだ。
今日はシフトに入っていた。
「ユウちゃん、着いたよ」
ホキさんのしわがれた声で我に返った。
時計の針はあれから30分以上回っていた。
「ご、ごめんなさい。私寝ちゃって……」
「いいって……連絡入れるから、準備おねがいね」
ホキさんはこれまた年齢不詳の顔で私を急かした。
車を降りると、あたりを見渡した。丈の低いアパートと、あとは一戸建ての住宅街。
反対側にはわずかながら、田んぼもある。
ライトバンの中から携帯片手にホキさんが上を指差した。
どうやら、このアパートに違いなかった。
私はバッグの中身をもう一度確認すると、建物に向かって歩き出した。
建物は三階建て。オートロックなどというしゃれたものなどなく、誰でも通行自由。
一応エレベーターは設置されていたが、横付けされていた自転車が邪魔で使うのをやめた。
螺旋形の階段を登っていく。ペタペタとミュールの音が鳴った。
心細くなって、車がある方を見た。
不安に押しつぶされそうになりながらも、重い足を引きずった。