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僕とお姉様
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僕とお姉様〜第一歩〜-3

『ガチャン』

突然部屋の鍵が開けられて、その音でお姉様の肩が上下に揺れたのが見えた。
入ってきたのは若い男。隣市の私立高校の制服を着ている、同世代同性の僕が思うくらいのいわゆるイケメンだ。
男は僕を見てふっと鼻で笑った。

「また高校生かよ」

カチンとくる言い方。こいつが平成生まれの元彼か。手切れ金を渡すような奴だ、あまり性格は良さそうじゃない。

「関係ないでしょ」

お姉様が顔を向ける事はない。でもその強気に振る舞う姿は僕には痛々しく思えた。

「そりゃそうだ」

また軽く笑って、僕らを気にする事なく着替え始める。

「家具も欲しかったらやるよ。他にいる物あったら持ってっていいし」
「いらない」
「だって会社クビになったんだろ?俺は新品買えばいいけどお前はこれから困るだろうが」
「…別に」
「無理しなくていいのに」

着替えを終えた男の前に僕は無言で立ちはだかった。

「なんだよ」

僕はこいつがどうしても気に入らなかった。できるなら今すぐお姉様の前から消してしまいたいくらい。
だって、泣きそうなんだよ、あの人。
大人のクセに…

「今片づけてるから、手伝う気がないなら出てもらえる?」

こんな時ドラマや漫画の主人公は悲しんでる女の人の為に相手を殴ったりするんだろう。でも僕は喧嘩や言い合いをするほど血の気の多い人間ではない。
だからこれが僕がお姉様の為にできる精一杯の行動。

「言われなくても出かけるから。じゃあな」

部屋はまた僕とお姉様だけの空間に戻った。直後、その目から涙がポツポツこぼれ出す。
泣いてる女の人がいたらどうすりゃいいんだ?
学校で教わらない突然の課題に焦ったけど、それを知ってか知らずかお姉様から口を開いてくれた。

「ここで一緒に住んでたじゃんね」
「…そっすか」
「あの子は勤め先の社長の息子で、特別に社員寮で一人暮らししてたとこにあたしが転がり込んだの」

社長、公私混同も甚だしいな。
いや、それよりつくづく、居候の好きな人だな。
一番に浮かんだ意見だけどそれは心の声として留めて二番目の意見を口に出した。

「僕が言うのも何ですけど、あんまりいい奴には見えなかったです」

相手の顔も見れないくらい引きずってるお姉様、一方は金で片付けようとする男。

「そう思う?」
「男を見る目がないなって」
「そうかなぁ」
「そうですよ」
「人を見る目はあるんだけどな」

お姉様はパンパンになった旅行カバンのファスナーを閉めて、軽く形を整えながら僕を見て微笑んだ。

「山田は迷惑だろうけど、あたし昨日山田に会えてほんと良かった」
「…っ」

それはお姉様が僕に見せた最高に自然な笑顔。年上には見えない可愛らしさは一瞬息をするのを忘れてしまうほど。

「さあ!帰ろっか」
「えっ、あ、はい」
「…の前に」

カバンから茶封筒を取り出してそっとテーブルに置いた。

「なんすか、それ」
「これ?手切れ金」
「…いらないんですか」
「だって必要ないし」

いくら入ってるかは知らないけど、ちゃんと返したお姉様は悪い人じゃないと思う。
常識はないけどね。
パンパンの旅行カバンを重そうに持ち上げるから、僕は見かねてそれを奪うように持ち手を掴んだ。


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