habitual smoker 2-1
こんな事をしたのは、満月のせいだろうか。
シュウと別れた足で、私はある場所へと車を走らせた。卒業以来、一度も足を踏み入れる事のなかった場所へ。
何時間かかるかなんて頭になかった。ただ、幸いにも明日は休日だった。
―――――…
体育祭が終わった頃から、まっつんは屋上に来なくなった。きっと受験が近付いたからだろうと、私は思った。そう、思い込むしかなかった。
彼のいない屋上。彼との接点はこの場所だけだったから、一人で過ごす屋上はつまらないと知りつつも、毎日足を運んでしまう自分がいた。
だから、何よりも嬉しさが勝ってしまっていたのだろう。
『おー、えらい、えらい。』
『う、うるさい。』
あれは、秋だったと思う。けれど、冬が来たかのような寒い夜だったのを覚えている。
まっつんからの電話で、私は夜の学校に呼び出された。少々ビビり気味な私を、彼は校門の前で待っていた。
『家、大丈夫やった?』
『多分。…ちゅうか、こっそり。』
『俺も。』
まっつんの私服姿は、なかなか格好良かった。彼の隣に座り、彼がそうするように空を見上げた。吐き出された煙草の煙が白く綺麗にみえた。
『俺、満月嫌いやねん。』
その声色がひどく真剣に聞こえて、私は息を呑んだ。初めて見せたまっつんの素顔だった気がした。
『ツッコめや。』
『…ボケたんかい。』
空には満月が浮いていた。闇夜を照らす、ほのかな光が。
彼はすぐ笑ったけれど、私は何も言えなかった。
まっつんが抱えているものが何だったのか、私が知る由もない。その言葉に意味なんてなかったのかもしれない。
でも、その言葉に嘘はなかったと思う。
『思春期やでなぁ、俺。』
『…なんか、似合わへんで。まっつん老けてんもん。』
『まだ、18や。あ、ミヤちは反抗期や。』
『とっくに終わったっちゅーねん。』
呼び出した真意を窺おうと、時折彼の表情に目をやる。が、いつもと変わらない顔が、空を眺めている。
『俺、ミヤちのこと好きやで。』
『………は?』
『煙草と同じくらい。』
『250円は安いんちゃう?』
『毎月に換算したら、かなりヤバいで。』
二人、顔を見合わせて笑う。
『ちゃうて。欠かせへんて事やで。』
『……頭ぶつけたん?』
『どこでや。』
結局うやむやなまま、その真意は今でもわからない。
でも、冗談でも構わない。例えそれが嘘でも夢でも、嬉しかった。