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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み8 〜文化祭〜-9

 ――保健室まで来ると、龍之介はドアをノックした。
「路子さん、ちょっといい?」
 室内に顔を覗かせ、龍之介は呼ばわる。
「なぁに?」
 手持ち無沙汰そうにコーヒーカップをいじくっていた保健医は、龍之介を認めて首をかしげた。
「廊下で喧嘩してる三人組がいるんだ。終わったら手当が必要になるだろうから、移動しといた方がいいんじゃないかな」
 それを聞いた路子は、険しい視線を龍之介へ向ける。
「喧嘩、ほったらかしてきたの?」
「美弥もいるし、殴り合いに巻き込まれる気はないからね」
 いけしゃあしゃあと言う龍之介をじろっと睨み付け、路子はため息をついた。
「仕方ないわね」
 救急箱を片手に、路子は立ち上がる。
「あ……留守番、お願いね。保健室閉める訳にはいかないし、こんな事を言いに来れるくらいなんだから、どうせ暇なんでしょ?」
 嫌みなのか依頼なのかよく分からない台詞に、龍之介は肩をそびやかした。
「……留守番、押し付けられちゃったなぁ」
 申し訳なさそうな声に、今まで黙ってやり取りを聞いていた美弥は首を振る。
「いいよ。後で見に行こう」
 そう言ってからきょろりと視線を巡らし……目的のものを見付けて微笑んだ。
 備え付けの、湯沸かし器である。
「誰か来ると思う?」
 美弥の声に、質問の意図が分からない龍之介は目をぱちくりさせた。
「いいや。個室入るから、見張っててね」
 美弥は湯沸かし器の近くに干してあるタオルを一枚、失敬する。
 タオルをお湯で湿らせた美弥は、個室に入ってカーテンを閉めた。
 少ししてから、衣擦れの音が聞こえる。
 どうやら、服を脱いでいるらしい。
「み……美弥ぁ?」
 そわそわした声のせいか、カーテンの向こうから笑い声が聞こえた。
「大勢の前であんなドレス着たの、初めてでしょ?緊張して汗かいちゃったから、シャワーは無理でもせめて体拭こうと思って」
 なおも衣擦れの音をさせながら、美弥は言う。
「あぁ……成る程ね」
 龍之介は肩をすくめると、適当な席に腰を下ろした。
 衣擦れの音が止み、体を拭いているような音がし始める。
 ……上半身だけ、脱いでいるのだろうか。
 それとも、制服も下着も脱いで全裸で……。
 邪な想像が頭の片隅を占領し始めたため、龍之介は首を振ってそれを誤魔化そうとする。
 恋人の肉体に対する飽くなき探求心に、龍之介は憮然とした。
 無意識に誘惑してくる事はあっても意識的に誘惑するという事はほぼない美弥の事だから、今の状況は考えて作り出した訳ではないのだろう。
 何秒か……有り体に言って二秒もかからない間に、龍之介は決断した。
 
 
「ん」
 体を拭き終えた美弥は、タオルを脇に置いてショーツを手に取る。
 最初は上半身だけにしようかと思ったが、緊張のあまり背中を伝った汗が腰まで到達していた事を思い出したので、結局下着も脱いで体を拭いていた。
 熱いタオルで体を清めた爽快感の冷めないうちに、美弥はショーツに片足を通す。


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