Twilght Closse T〜発端〜-1
Twilght Closse T〜発端〜
その状況はさながら殺人事件の現場だった。プリントを持った俺の手は震えが止まらない。カップ麺の捨て殻が辺り一面に散乱し、部屋がゴミ箱の様になってる。
そのゴミ箱の中心にパソコンが設置してあり、その下に目当ての女性が横たわっていた。
「おぃ。奥崎?」
へんじがない、ただのしかばねのようだ。
じゃなくて!
俺は奴の片をつかんで、片を揺り動かした。
年頃の少女にしては軽すぎる片は、簡単に抱き上げる事ができた。
「おい!奥崎!しっかりしろ!奥崎!」
奥崎は目を覚まさない。体温が残ってる所を見ると、まだ生きてるようだ。
「おい!おい!」
…グゥ〜〜…
「…」
緊張感の無い音がした。
…
……
………グゥ〜〜
「台所、借りるぞ」
ゆっくり奥山を寝かし、俺はカップ麺殻を踏みながら台所らしき所に入った。
平野十字朗。高校一年生。只今夏真っ盛りな俺は夏休み前の熱気に殺られそうだった。樋村担任の帰りの連絡を聞き流し、たれぱんだの構えでぼーっとしてる。
「じろー。お前教室に扇風機持ってこいよー。涼しいぜきっと」
「お前がそう言う寒い冗談言ってる方が涼しくなるぜ」
隣の席で、同じくたれぱんだフォームのじろーが冷たく返した。少し位のってくれてもバチは当たらないのにな。
「十字朗。頭が沸いてるんじゃないか?夏バテに気を付けろよ」
「ありがとよ。おまえもな」
「そんなお前にイイモノをやろう」
す、と一束の紙を渡される。
『夏休みの友』
その束の一番上には見紛う事なく、ゴシック体で楽しそうに(少なくとも、中は楽しくもクソもないだろうが)書いてあった。
「…おい、これなら貰ったぞ?お前こそ沸いたんじゃないか?」
「いや、正気だ。お前のじゃなく、奥山のだ」
奥…山……?
誰だっけ?
「誰?」
「ああ、引きこもりの女な」
…は?
「悪い。良く聞こえなかった」
「家が近くてな。持ってくの頼まれたんだが…今日はちょっと用事があってな」
なるほど、わかりやすい。要は、面倒事を俺に押し付けるって事か。
「家、知らないんだけど?」
「そこでお前に地図を用意した」
何度も遊びに行った事のある家から線が二、三本。ああ、スーパーが近いな。意外と便利な所に住んでるんだな。その奥山とか言う奴は。
「わかった。貸し一つで引き受ける」
「おう。任せた」
じろーには今度空き缶拾いのボランティアでもさせてみるか。
俺は冊子を受け取り、鞄の中に入れた。
「ついでに夕飯を作ってやれば?最近の女は、家庭的な男が好みだって青木が言ってたぜ?」
「はいはい」
いつ、どこの番組で青木が言ってたか御教授願いたい事だ。第一、青木は好きじゃない。律儀に助言を聞く気もない。
「連絡は以上だ。各自、気を付けて帰るように」
別に大した仕事じゃない。今夜の晩飯材料を買いに行くついでに寄っていけばいいだけの事だ。
ここまで何も知らず、気付きもしなかった。
でも、事態は確実に動いてた。誰が動かしたか分からないが、俺の波乱な夏はここで始まっていたんだ。