『 インタビュー 』-1
夜明け間近、門前でときの声があがると、脇戸を打ち破る音、鉄砲のつるべ打ちが続き、暁の静寂をやぶる一万三千余名の喚声が、一斉にわき上がった。
小姓衆、番衆のはげしく罵り合う声が聞こえる。せわしく打ち鳴らす寄せ太鼓の音が、境内の緊張を一気に加速させる。
「もうそろそろだぞ」
私はスタッフ2人に声をかけると、物陰から表御殿が撮影できる場所まで移動した。
帷子に小袴をつけただけの小姓が数人、素槍を手に慌てた様子で表御殿に姿をあらわした。
その中に目の覚めるような美男子が一人いる。
あれが森蘭丸か?
私はスタッフに無言で撮影の合図を送ると、自らもインタビュー用の機材を取り出した。
しばらくすると、御殿に弓を持った男があらわれた。
空穂を小姓に持たせ、この急襲にも動じた様子がない。男がつづけざまに弓を射ると敵がバタバタと倒れていく。
男の出現にも、多勢に無勢、圧倒的な劣勢に変わりはなく、雨のように降り注ぐ銃弾に、御殿の入り口を守る蘭丸、力丸、坊丸も息絶えた。
男も弓弦が切れたのをしおに、一気呵成に攻め入る敵の槍先を肘にうけ、生き残った小姓とともに、殿中の奥深くへと撤退を与儀なくされた。
「よし、侵入しよう。インタビューが録れるはずだ」
私とスタッフは当初の手筈通り、寺の裏手へと回った。
一万三千という軍勢に包囲されているとは思えないほど境内はひっそりとしていた。
御殿前での小競り合いをのぞけば、塀を乗り越えて侵入してくる敵がいないことが不思議に思えた。
裏木戸から潜り込み、湯殿、厨と通り抜け、寝所に近づくにつれ、人の話し声が聞こえてきた。
ここに違いない。
時間もあとわずかしかない。危険を承知で、一気に襖を開け広げた
そこには、最期を迎えようとする天下の大武将、織田信長がいた……。
※ ※ ※
2176年、カリフォルニア工科大学のベア教授のグループによって実用化されたタイムマシンは、翌年の2177年、連邦政府の厳重な管轄下に置かれ、同年、発令されたルレンジ法の適用により、民間人の使用は固く禁じられた。
特に1700年以前への跳躍は、歴史への影響が計り知れないという理由で、一部の研究者以外は、政府高官といえど使用は許されなかった。
しかし人間というもの、山あれば登りたがり、海あらば泳ぎたがるもので、2180年、一部のマスコミによってゲリラ的に行われた、『サダム・フセインインタビュー』が世論の反響を呼び、各時代、大事件の主役に生の話を聞く、というのが一種のブームになった。
ただし、報道協定によって固く守られていた1700年ラインを、違法と知りつつ初めて今回乗り越えたのが、フリーのジャーナリストである私と、『Fly・DAY』のスタッフ2名だったのである。