School days 03-1
青島宴。「うたげ」ではない、「えん」と読む。年の頃は15。中学三年生だ。優しい、普通の女の子。スポーツは苦手な部類に入るが、勉強は得意で、学年でも5番内には軽く入る。家庭にも恵まれ、友達とのトラブルもない彼女のたった一つの悩みはヤツだった。
近藤賢輔。宴と同じクラスの男子。スポーツ万能、成績優秀、その上端正な顔立ち。この優等生がただ一つ、先生達を困らせることがある。それは彼が半不良だということ。
茶髪にピアスは当たり前(最近どういう訳か黒髪に戻したが)、暴走族と繋がりがあると、専らの噂である。
そんな彼が、何かと宴を目の敵にしてくるのだ。冷たい目線や口調ならまだ良い。掃除を代われ、何か買ってこい、お前は馬鹿だ。時にはひどい罵りをもする。それでも、彼は全校から怖がられている為に誰も助けようとしない。友人も影で宴を励ますくらいしかしてあげられない。
宴もそれは分かっていた。だから誰かに助けを求めるようなことは決してしなかったのだ。
さて、前置きはこのくらいにしよう。今日の話だ。
宴の中学では、今年は三年に一度の文化祭が開かれる。当日まで一週間を切った為、どのクラスも出し物の準備でてんてこ舞いだ。
宴のクラスはお化け屋敷をやることになっている。皆お化けの衣装を作ったり、段ボールを集めたり忙しい。しかし全員という訳ではない。賢輔は毎回決して出ることが無いし、「それなら自分も」と来なくなる者もちらほら見受けられる。そのため準備はなかなか進まなかった。
「宴ちゃん、間に合うかなぁ?」
友人の声。
「間に合わせないと…」
宴が答える。
「だよねぇ…みんな来いよって感じ!」
怒る友人に、宴は苦笑した。来ない皆の気持ちも分かるからだ。こんなバラバラのクラスで準備するなんて馬鹿げている、
そう思うのだろう。
下校を促す放送が流れた。6時である。時間的には早いが、外はもう暗い。皆は帰りの支度を始める。
「宴ちゃんは?帰らないの?」
「うん、もう少しだけ残ってくよ」
「分かった。じゃお先にね、バイバイ」
最後の一人が去った教室。突然広く感じられた。ふう、と息を吐いて宴は掃除用具箱に手をかける。床には布の切れ端や紙屑が散らばっていた。
「なんでなんだろ…」
呟いてほうきをかける。
どうしてこんな纏まりのないクラスなんだろうか?
どうしてたまたま私がそのクラスなんだろうか?
どうして私なんだろうか―…
「私が強いとでも思ったの?神様。私だって本当は泣きたいんだから…」
「青島さん」
突然の声。振り向くと学年主任が扉から覗いていた。
「もう下校時刻ですよ。掃除もいいけど早く帰りなさい」
「はい、分かりました」
安堵した顔で去りかけた先生が何を思ったか戻ってきた。
「そういえば正面玄関は閉めましたから西門から出てくださいね」
え、と言葉を詰まらせる宴。無理もない。西門といえば理科室、美術室が近い、暗い場所にある。恐いことこの上ない玄関だ。
(最悪…)
掃除を終えた宴は荷物を持ち、電気の消えた教室を後にした。
(ああ、恐いな…なんか歌でも歌おうかな…)
手提げを握る手に力を入れる。…と、階段に数人の影が見えた。
(?誰だろ…まだ残ってる人いたんだ)
近づくにつれ、声がはっきりしてくる。それは賢輔の友人らだった。校内のぐれている輩は賢輔一人ではない。中心人物は彼だが、取り巻きも数人いるのである。
影は5つあった。そのうち一人が宴に気付いた。
「あれえ?宴ちゃんじゃんか、何してんの」
皆がこちらを見た。
「一人なの?」
「危ないぜ?」
宴はペコリと礼だけをして足早に通り過ぎようとした。
「おーっと、無視ですか?」
「ちょっと話そうよ」
ぐいと手を掴まれる。
「や…放して、私帰らないと…」
「宴ちゃんてさ、おっぱいおっきいよね」
その一言で宴は人形のように固まった。
「俺、ずっと触ってみたかったんだぁ」
少年達がニヤつく。もう片方の手も握られ、宴は壁へ押し付けられた。
「やめて…いや…」
半泣きでいやいやをする宴を尻目に、一人がブレザーに手を入れてブラウスの上から胸を揉みつけた。
「うわ、すっげぇムニュムニュ…」
「俺にも触らせろよ」
宴は必死に抵抗するが、押さえる手がそれを許さない。