「人魚」(前編)-1
俺がそいつに初めて出逢ったのは、ぬるみつくような風の吹く、七月のはじめだった。
疲れた顔の漁師。
しょぼくれた海女。
長旅にやつれた水夫。
そして俺のように東から流れてくる罪人たちが集う港町。
だからこの町はいつだってこの世の終わりのようなブルーグレイの空をしている。その色が人々の表情を余計に淋しく、あるいは険しく際立たせているのだ。
その日俺は買い付けのために市場へ行かされていた。
そいつは栄螺売りの売り子だったか? いや、そうじゃない。では、若い海女? でなければ買い付けに来る女工場長? どれもはずれだった。そいつは売り物で、井然と角の売り場の青いビニールシート上に並べられていたのだ。
細く青白い二本の腕を後ろ手に縛られ、まるきり魚と同じ下半身をぐにゃりと曲げて座っていた。
うつむいているので顔はよくわからない。海藻のような髪は長く、べっとり乳房から腹を覆っている。
「腰から上が人じゃけぇ、食うにも食われへん。ええ乳しとるけん、一発かましたろうかと思うたけど、穴がどこかいねぇ」
そう言って、その狒狒に似た漁師は卑しく笑った。古株の爺だ。前科十犯という噂だが、定かではない。
そのとき、そいつの灰色の鱗がぴくりと動いた気がした。すぐ側では、白髪を振り乱した気の触れた老婆が
「祟りじゃあ…いびせぇ祟りじゃ。海神さまの祟りがあるけぇ・・・ああ・・」
としきりに手を合わせながら、がたがたと震えながら呟いていた。
「あんやん、今日は仕入れなんやろ?何処のもんや? いくらもっとる、え?」
別の漁師が露骨に聞いてくる。見慣れない奴だ。年をくってるくせに、どこかぎこちない発音で話すところをみると、彼もまた東流れの前科者らしかった。
「そこの旅館の下働きです。今日あたり鯖と鰈がどうかって板長が…」
俺が語尾を濁らせながらそう言うと、見慣れない方の漁師がそっと狒狒の方に耳打ちした。狒狒の方はそれを聞いて表情一つ変えず、軽く頷くと、じっと俺の目を見て