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「人魚」
【ホラー その他小説】

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「人魚」(後編)-3

 いや、そんなのは言い訳だ。



 俺は始めから基子を・・・

 痛い。首の後ろが疼く。爪が・・・爪が深く食い込んだからだ。首の後ろが赤いのは・・・

 基子の爪跡。



 まだ寒い二月の海に、基子は身を投げた。岩礁にぶちあたり、波に揉まれ、ぼろぼろになった基子の身体は、太腿から下の部分がほとんどなくなっていたと聞かされた。そして、解剖の結果、基子は妊娠していたことがわかった。子供の父親が俺であったことは間違いないだろう。それでも罪にならなかったのは、基子の遺書に俺の名が一度も出てこなかったからだ。記されていたのは、両親に当てた謝罪のみだったという。しかし、俺はそのまま故郷になどいられるわけもなかった。



 ―最後の言葉は・・・



 あの夜、すさまじい虚無感と罪悪感の中、基子は、白くカサつき、乾いてしまった唇から言葉を漏らしたはずだ・・・潤んだ、虚ろな目で俺を見上げて・・・



「もう、離れない」



 幻聴でも妄想でもなく現実の声がした。そいつが言ったのか基子が言ったのかは解らなかった。意識が朦朧とする。ブルーグレイの空が海鳥たちを泳がせている。ぐるぐる、ぐるぐると。憶えがある。以前もこうしてこんな景色を見ていた気がする。とりかえしのつかない気持ちのままで。



 きっと俺は再び目覚めるのだろう。何度でも出会うのだろう。過去に、基子に、異形の者に。



 この苦しみから解放されることは許されないのだから。


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