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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*8*-3

「一緒に持ってくれない?」
あたしは小さく頷き、そっと差し出されたそれを握った。


距離を置くって、そう決めたはずなのに、あたしはもっと矢上を知りたくなる。本当の矢上が見てみたい。だけど、そんな自分が恐い。あたしじゃないみたいで、恐くなる。
「どうしたの?おとなしくなっちゃって」
からかうような矢上の口調に、あたしは
「何であんたが買い出しを引き受けたのか考えてたの」
と返した。
「何でって…」
矢上はチラッとあたしを見るとすぐに天を仰いだ。
「オレ、嫌われてるじゃん」
そう言って少し笑った。
今度は真直ぐあたしを見て
「付き合わせちゃってごめんね、音羽ちゃん」
と言った。
だけどその笑顔はとても淋しそうで、私は心臓をキュウッと捕まれたような息苦しさを感じた。
本来、笑顔というのは心の底から「楽しい・嬉しい」と思った時に出るものであって、それを見る他人でさえ温かい気持ちにしてくれるものだ、とあたしは考えていた。
簡単に言うなら、本人の心境がそのまま表情に出てくる…と。
だけど矢上の笑顔は見ていると切なくなる、悲しくなる。ということは、矢上は今悲しんでいる…。
あたしは、教室を出てくる時の矢上の寂しそうな顔を思い出した。
もしかして矢上はワザと、皆から離れるために買い出しに来たのだろうか。
本当は皆と仲良くしたいんじゃないだろうか。
「矢上…」
「まっ仕方ないよねぇ、オレってばホント最低な奴だしね」
これもワザとだ。ワザと矢上はあたしの言葉を切った。
「矢上!」
あたしは大きな声を出していた。自然とあたしたちの歩みは止まる。
「矢上…あたしは」
「オレさ、同情されんの嫌いなんだ。だからそれ以上言わないで」
あたしより前に立つ矢上の表情は伺えない。だけど、声は鋭く強い口調だった。


『あたしは矢上のこと嫌いじゃないよ!』


言えなかった。
「ごめん…」
あたしは謝ることしか出来ない。
なぜだかあたしは、すごく悲しかった。
矢上は、あたしを信頼してない。あたしに心の内を見せてくれない。
そう思った。
矢上はいつもよりトーンの低い声で「帰ろう」と言うと、ゆっくりと歩きだした。あたしも俯いたままついていく。


―…♪…♪…♪…


急に、矢上のポケットから洋楽が流れた。
「あ、メール…」
矢上は独り言のように呟くと、空いている右手をポケットに突っ込み、シルバーのケータイを取り出した。片手で器用にパカンと開け、ボタンをカチカチと押していく。

また、メールか…。

そんなことを思いながら、あたしはその動作を見ていた。
次の瞬間だった。
それはまるでスローモーションのよう。
矢上の掌からケータイが滑り落ちた。
「やべぇ!」
矢上が咄嗟にケータイを掴もうとするがもう遅い。反射的にあたしも左手を出すが、少し擦る程度で何の意味も無く…カシャーンと地面に叩きつけられたケータイは、三つに分裂した。
ケータイ本体と電池パックと電池パックカバー。
「悲惨…」
あたしは袋を離すと傍に落ちていた電池パックを拾い上げ、砂を落とした。ついでに、左手を出した時に落としたダンボールも拾い、パンパンとはたく。
「うっわぁ、傷付いちゃった…」
袋運びは一時休戦。
矢上は残念そうにケータイを撫でている。
「いっつもメールばっかしてるか…ら…」
電池パックカバーを先程と同様に拾う。そして、砂を払こうとしたあたしの動きが止まり、あるものに目を奪われた。


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