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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*8*-2

あたしは、教室に戻ったら好美とゆかいな仲間達に何をさせようか、妄想を膨らませていた。
取り敢えず、足がだるいのでマッサージはしてもらう。腰も砕けそうに痛いので揉んでもらう。喉が渇いたのでジュースを奢ってもらう。小腹が空いたのでコンビニからあたしの大好きな『ハムカツサンドイッチ』を買ってきてもらう。
考えただけでも愉快だ。あたしに買い物頼んだことを後悔させてやる。
あたしは右手に持っていた段ボールを左手に移し替えた。そして、目の前にある色とりどりの絵の具が入った袋を持ち上げる。
「ふぉんっ!」
変な声と共に袋が数センチ浮き上がった。と同時に、グンッと右腕が引っ張られる。
「っとと…ほっ、よっ」
あたしは右に左によろけながら、何とか前に進んでいく。
しっかし…こりゃ重い。想像以上の重さだ。
本当にこんなに大量の絵の具、使うんだろうか。
あたしは店内のデザインをした樋口と岡田、鮎子と春菜を怨んだ。
…だからバチが当たったのだろうか。
あたしは袋の重さに体を取られ、自然と真横にフラフラ歩きだした。
「わっ、あぁ!ヤバッ…ぅわっ」
足が横歩きを止めない。まるであたしは生まれたての子蟹だ。
海という名の道路に、あたしは一直線に進んでいった。
確実にヤバイ。事故って死ぬ。
バランスを崩して転ぶのを覚悟し、あたしは足を強制的に動かさないことにした。
体が斜めになったと思った瞬間
「危ないってば…」
あたしの体は一本の腕で支えられた。なので、精神的にも肉体的にも痛い思いをせずに済んだ。
「…ありがと」
ここは素直にお礼を言っておこう。
そんなあたしを、矢上は呆れたように見下ろしていた。
「だから言ったでしょ?絶対無理だって。ホラ、貸して、オレが持つから」
矢上があたしの手から袋をもぎ取った。
「ダメ!あたしが持つ」
あたしは矢上の袋を掴もうとしたが、ひょいひょいと躱されてしまった。
あんなに重い物を軽々と…。
本当は自分でもこれはそう簡単に持てないことぐらい分かっている。
だから、あたしは自分に納得できないのだ。
「何でそんなに持ちたがんの」
「あたしが実行委員だからだよ!」
矢上は「だから何だ」と言うように首を捻った。
「あたし、計画書は書いてない。話し合いだってまともに進められない。…好美たちをあたしの手足として動かせない…」
最後の方は相当、自分勝手な考えなので自然と声が小さくなる。
「だからあたし、実行委員としての仕事、何にもしてない…」
「…音羽ちゃん」
「だからあたしは…いやいやだけど…任されたこの仕事はちゃんとしたいの」
そう言って、あたしは矢上の持っている袋に手を伸ばした。が、やはり躱されてしまう。
「何で!?」
あたしは矢上をキッと睨む。
「そんなこと言っても、絶対無理だよ」
困ったように眉をしかめる矢上。
「だけどね…」
矢上の顔がフッと綻んだと思うと、あたしの方にビニール袋の持ち手の片方を差出し
「手伝って欲しいんだ。これ一人じゃ重くて…」
と言った。

なぜだろう。その瞬間、何かが…この袋よりも重い何かが、スッと無くなったように感じた。


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