午前零時の情事-1
それは、ゆっくりと慎重に、僕の生活を浸食し始めた。
晴れて希望の大学に入学し、新生活に心を躍らせていた僕を襲った悲劇。
一人暮らしを始めたこの部屋で、僕は誰にも言えない秘密を持っていた。
バイトから家に帰ると十一時ちょっと過ぎ。それからシャワーを浴びて一息吐いた頃、それはやってくる。
最初は今ほど酷くなかったし、時間も短かった。だから、気のせいだと思っていた。
最初はほんの一、二分、何かが身体を触る気配に鳥肌を立たせるだけだった。
だけど、今は……。
時計が時間を刻む音が、やけに大きく聞こえる。
針は、午後十一時五十九分を示していた。
僕はベッドの上で、身を強ばらせながら時計を見つめている。
秒針は半分を回り、徐々に頂点に近付く。
止まれと願いながら見つめる僕の希望も虚しく、秒針はその頂点を通過し、長い針が一歩、歩を進めた。
午前零時。
日付が変わり、新しい一日が始まった。
それと共に、僕の苦しみも始まる。
僕は毛布をたぐり寄せ、それを頭から被った。
胸の辺りできつく掴み、顔だけをひっそりと出す。
シーンとした部屋の空気が、徐々に重たくなるのを感じた。
鼓動が早くなり、僕は意識して深く大きな呼吸を繰り返す。
眼を凝らして、辺りを凝視する僕の頬に、『何か』が触れた。
僕は毛布を被ったまま、ベッドの上で座った体勢で後ずさった。
狭いベッドの上、背中はすぐに壁にぶつかる。
頬に触れた『何か』の感触は消えず、肩に降り、腕を撫で、膝を伝って、毛布から出ている足のつま先へ触れた。
小指、薬指、中指……、外側から内側に一本一本移動してくる。
「……や……めて……」
震えた弱々しい声が出た。
だが、見えない『何か』は、親指から足の内側を辿って上り、簡単に毛布の中に入り込む。パジャマの上から僕の足を撫で上げ、きつく閉じた膝をたやすく通り抜け、内股に到達する。
そこから今度は何処へ移動するのか、簡単に想像できる答えに怯え、僕は立てていた膝をペタンと付けた。
「……ひっ……」
途端に襲った感触に声を上げる。
普通に考えれば、僕の足とベッドとに挟まれて動けない状態だと想像できるそれの感触は、もう僕の足の下にはなく、突如として毛布の中の僕の上半身を襲った。
一つだった『何か』が二つに増える。
パジャマの上から、平らな胸の唯一の飾りである突起に、触れた。
「……んっ……ん…」
布の上からのじれったい愛撫。
心は嫌悪感でいっぱいなのに、身体はだんだんと熱を帯びてくる。
「……や……だぁ」
意味のない毛布の防御を尚もきつく握りしめながら、『何か』の動きを制止しようと胸を腕で庇う。密着して隙間などないはずなのに、それは僕の胸の上を好き勝手に這い回っていた。
「……ふっ……んん……」
胸の飾りを巧みに愛撫され、僕は甘い息を洩らす。
毎夜のこの行為に、身体が敏感になっていることを感じた。
両方の突起を強く摘まれキュッと捻られる。
強すぎる刺激に、僕は思わず上半身を前のめりに倒した。
それでも愛撫は続けられ、熱はどんどんと身体の中心に集まって行く。
堪えても堪えきれない変化が、僕の身体に表れ始めていた。熱を帯び、硬くなり始めたそれを、お腹に感じた。