刃に心《第５話・ミッション名─デートを監視せよ》-7
「せ、世界が一望できそうだからだ！」
かなり無茶なこじつけ。だが、疾風はふ〜んと納得。
「まあ、土産でも買って帰ろう。何か欲しい物あったら買ってあげるからさ」
「そ、そうだな…はぁ…」
あの観覧車があったからこそ、この動物園を選んだ楓にしてみれば裏切りに等しい行為だった。
仕方なく楓も疾風と共に土産物屋に入った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「楓、何か欲しい物あった？」
疾風が楓に声を掛けた。しかし、反応が無い。
見れば、楓はデカいパンダのぬいぐるみの前に立ち尽くし、ツンツンとその腹をつついている。
「それ欲しいの？」
「ッ！！は、疾風！」
完全に自分の世界にいた楓は頓狂な声を上げた。
「い、いや！ただ…モコモコしてて、手触りが良くて、あったらいいなとは思ったが、決して欲しい訳では…」
「買おうか？」
タグからは樋口さんの顔が浮かぶが、幸い疾風の財布は福沢さんが数人のお陰で暖まっている。
「いいのか…？」
「ああ」
疾風はそのデカいぬいぐるみをレジへと運んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
帰り道。
「ありがとう疾風♪」
レジを通ったパンダを小脇に抱え、楓が満面の笑みで礼を述べた。
「…今日は…楽しかった…」
少々俯き気味で楓が言った。疾風もそれに笑顔で応える。
「今日は新しい発見があったな」
「何だ？」
「…楓は意外とパンダ好き」
「う、五月蠅い！パンダ好きの何処が悪い！」
そんなやりとりをしているとやがて我が家が見えてきた。
「また…出掛けたい」
楓は赤い顔で呟いた。
「そうだな…今度はシイタケ達誘っていくか」
そんな返答に短く溜め息を吐いた。
だが…また、疾風と遊びに行ける事を想像し、フッと笑うと空いている右手で疾風の手を握った。
続く…