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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第6話・愉快に誘拐》-1

部屋の中。
仄かな明かりに二つの人影が揺れている。

「準備の程は?」
「整っています」
「役者は?」
「揃っております」
「なら…後は…」
「主演男優と主演女優のみ」

両者の口許が妖しく歪んだ。

「最後まで抜かり無きよう…」
「御意…」

企みは緩やかに…
けれど、着実に進行していた…

《第6話・愉快に誘拐》

◆◇◆◇◆◇◆◇

楓は階段の踊り場で一人佇んでいた。
階段を上がった先には普通の教室よりも大きめの部屋があり、プレートには演劇部と書かれてある。
疾風はその部屋に呼び出されていた。

「ふぅ…」

楓は小さく息を吐いた。少し話しているのか、疾風は遅い。
やはり、自分も一緒に行くべきだっただろうか…
そんなことを思いつつ、ぼんやりとしていた。

黄昏に染まる踊り場は不思議な雰囲気を纏っている。
夕日の淡い紅は幻想的で、そこから生まれる暗い黒は不気味に隅に居座っていた。
人影は見えず、声は外から少々。

「…ふぅ…」

もう一度溜め息。そして、自分も疾風の元へと向かおうとした時…

「ムグッ!?」

突然暗がりから現れた二本の腕。
詰まる呼吸と口と鼻を封じる柔らかな布の感触。そこから香る甘い匂いと息苦しさに意識は朦朧とする。

(…はや…て…)

楓の瞼が落ちた。腕からは力が抜け、ダランと垂れ下がる。
襲った腕はそのまま楓の脇を抱え、暗がりへと戻っていった。
獲物を仕留め、捕食する蜘蛛の如く…

◆◇◆◇◆◇◆◇

演劇部の部室兼練習場では20人程の部員がせわしなく動いていた。
疾風はその中で仲間数人と台本を片手に演技する霞を見つけた。

「霞、来たけど…何の用だったんだ?」
「あ、兄貴」

霞も疾風に気付いて、演技を中断。仲間に断りをいれて疾風に駆け寄った。

「用は用なんだけど、正確には私が呼んだんじゃなくて…」
「お忙しいところ申し訳ありません、疾風さん」

そう言ってにっこりと微笑んだのは、この演劇部の部長『月路 朧(ツキミチ オボロ)』。
丁寧な言葉遣いとその穏やかなキャラ、そして茶道華道を嗜む、古き良き時代の女性となれば、その人気は絶大なものだった。


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