何もなかった。唄声だけが響いていた。1-2
朝だ。
目覚ましは鳴らない。
随分前に壊れてしまったから。
私も壊れているのかな?
この時計のように。
できれば誰かに起こしてほしい。
そう願っても変なプライドが邪魔して他者を受け入れられなかった。
寝起きは最悪。
腹痛をこらえながら鏡の前で歯を磨く。
また淋しい憂うつな一日が始まろうとしている。
寝る前はあんなに次の日が来るのが待ち遠しかったのに、朝はそれを受け入れられない。
わがままな私。
バイトの時間に遅れないようにシャワーを浴びて支度をする。
このシャワーの雫のように私の中の不要な感情もきれいに洗い流したかった。
身体と心に染み付いたちっぽけなつよがりはなかなか洗い流せない。
生活感のい4畳半を後にしてバイト先へ向かう。
昨日の夜唄った駅前は朝は通りたくなかった。
なぜなら現実を痛感するから。
夜はあんなに煌めく街も、朝は現実と時と人の流れが忙しなく滞りなく行き交うだけだから。
夢を見たかった。
いつか今を変われる夢を。
バイトの時間は何かと苛つく。
接客は全く向いていない。愛想のない私にきっとお客さんも苛ついてしまうだろう。
生きるための仕事。
手段でしかないこの行為に私は苦痛を感じながらも作り笑顔を繕うことに必死になった。
夕方までの5時間。
何も残らない時間。
私の牙をすり減らされそうな窮屈感に耐えて店を後にした。
夕暮れはわけもなく泣きたくなる。
太陽が沈むことが、何故だか私の一日が無意味に終わりかけていることを実感させた。
アパートへ帰りたくない。ここにもいたくない。
何処だ?私の居場所は?
…そんなのあるわけないじゃん。
ため息をついてから足早に家路に着く。
街は光を放つ。
何かが私を急かす。
急がなきゃ。
何かが私を脅かす。
アパートで何もせずに眠りたい気持ちをなだめて、情緒不安定な感情を押さえつけて、また駅前へと繰り出した。
私が唄うのは切ないバラード。
本当の切なさなんてわかってないくせに。
ノリの悪くけだるいバラードを唄う。
何がしたいのか?
周りの涙を同情を誘いたいだけなのか?
理由はわからない。
私は心の声を解き放つ。