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何もなかった。唄声だけが響いていた。
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何もなかった。唄声だけが響いていた。1-3

気が付くと一人の女の子が私の前にしゃがみこんで何も言わずに唄を聴いてくれている。

一曲唄い終わると
「哀しい曲だネ。」 
って苦しそうに笑ってくれた。 
「私も居場所ないんだ。」彼女は頬づえをつきながら遠くを見つめている。 

私は何て言っていいのかわからなくて、彼女と視線を合わせるのを避けてしまった。 

「ねぇ。もう一曲歌ってヨ。」

私は浅くうなづいてあの曲を唄い始めた。 

「SUNDAY」 
私が淋しくなった時によく聴くあの曲。 

私と彼女だけがこの場所にいないようなそんな感覚さえ感じた。 
私は目をつぶって唄いあげる。 
時折彼女もリズムにのって身体を揺らせていた。 

〜一人のSUNDAY。 
と唄い終わる頃には彼女は起き上がってこちらを哀しそうに見つめている。 

「ありがとう。また来るね。」
ぺこりとおじきをして彼女は街に消えていった。 

これが咲との出逢いだった。 

私も荷物を片付けて4畳半へ帰ろうかと思った。 
初めて人に唄を聴いてもらったうれしさと彼女の哀しそうな瞳を思い出しながらネオン光る街をかき分けて帰る。 

何故唄うのか? 
誰かに届けたいから。 

それだけじゃない。 
誰かを探していたから。

傷を舐めあえる相手を本当は探していた。 

歩みは止めない。
そんな自分の汚い、弱い本音に嫌気がさしながら。

肌を貫く冷たい風に耐えながら。 


私は明日も唄い続けるだろう。 

何かが変わるまで。 


きれいな一番星が夜空に輝き始めた。


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