habitual smoker 1-1
ドコが美味いのか、あの頃の私には理解不能だった。肺は真っ黒になるし。煙の臭いは染み付くし。キスだって、きっと不味い。
けどそれは、何故か大人の証のように見えた。
‐フーッ………
煙は、静かに肺を侵していく。短くなったその火を消して、2本目の煙草に手を伸ばした。中途半端な場所で漂う煙を眺めつつ、私は物思いに更ける。やっと、堂々と煙草を吸える歳になったんだな、と。
単なる好奇心から始めた煙草が、今はもう手放せない。息をする事と煙草を吸う事は、私の中では等しい存在なのだ。未だに、それが美味いとは思えないけれど。
「なんちゅうか、怒ってへん?」
「…………別に。」
「ミヤっちー。」
大学生ばかりが集まるファミレスの、いつもの席。
私、宮崎かおりの向かいに座るのは、大学の同級生である早川シュウだ。コイツは私をミヤっちと呼ぶ。そう呼ばれるのは、高校時代のある友達以来だった。
(お前のせいじゃ、ボケ)
言うだけむなしい事は知っているけれど、その顔をまじまじと見つめて溜息を吐いた。コイツの能天気さは、今に始まったことじゃない。
シュウとは、気が付けばつるんでいる事が多い。関西出身同士、気が合うのだろうか。今では、誕生日も癖も知っている。シュウの好みのタイプも恋愛話も、腐るほど聞いている。
けど、だからこそなのか、こんな男を好きになる理由が、私には一生解明できないと思う。
「やっぱ不機嫌やわ。」
「さっさ食わな冷めてしまうで。」
「…いただきマス。」
この短絡な頭を一発殴らないと気が済まない、かもしれない。ラーメンにがっつくシュウに、私は呟いていた。
「…いつからお前が彼氏やねん…」
「いやぁ、それしか思いつけへんかってん。」
「……いやぁ、て何や。」
シュウの周りに集まる女の子は多い。何故モテるのか、世の中はわからない事がありふれているらしい。シュウが彼女と別れると、みんな競って告白に走る。告白を断る手段のひとつとして、いつも私が登場するのだ。2年間で、私は何度こいつと付き合っただろうか。
「ほんまに付き合ってみよか。」
「………アホちゃう?」
「アホて…」
「アホやからアホや言うてんねんか。」
その手段のせいで、私は今日、友達を失った。多分、その子にとっても私は、シュウに近付く為だけの手段だったんだろう。何というか、怒っているというより呆れている、に近い。
「はぁー食うたー。」
「……なんで俺が奢らな……イエ、何でもないです。」
店を出ると、満月が私を照らしていた。こんな、まんまるなお月様を嫌う人を、私は知っている。
「またねぇ。」
「バイバイ。」
店の前でシュウと別れ、ひとり夜道を歩く。
『ミヤっちて、何で煙草吸うん?』
『……シュウかて吸うてるやん。』
『男はええねん。』
『何や、ソレ。喧嘩売っとるん?』
シュウは前に言ってた。『煙草吸う子は好きになれへん』て。なら私は、一生恋愛対象外。男の子は皆、そう思うのだろうか。