habitual smoker 1-3
空気みたいな人。それがまっつんという存在だった。近くに在るのに、決して掴むことのできない彼。
私は、彼のことをあまり知らない。自分の話をする人ではなかったから。話すのはいつも私で、彼は聞き役だった。
けれど、そんな日常に喜憂していた私を、きっと彼は知らない。
夏休み気分が抜けきれない頃。昼休みの屋上で、私はぽかぽか陽気に照らされていた。
『ん゛ー……』
(…このまま寝てしまおうか…)
唸り声をあげながら身を捩った事までは覚えていたのに。次に意識を取り戻した時には、景色は橙色に染まっていた。グランドには、体育祭の練習にいそしむ声が響いている。
『……ん……嘘ッ!?』
『おはよ。』
『……今何時?』
『もう放課後。ミヤち、サボリー。』
本気で寝てしまったらしい。自慢じゃないけど、授業をサボったのは初めてだ。身体には、まっつんのブレザーがかかっている。やっぱり、私のそれより大きい。
『うん……え、マジで!?』
『反応遅いわッ。』
ブレザーからは微かに、煙草の香りがした。
沈黙も、肌寒くなってきた放課後も、全てが心地良かった。まっつんが側にいるというだけで。それは大切な時間だった。