habitual smoker 1-2
止められないのは煙草なのか、それとも…。尋ねるように見上げた月は、ただ静かに笑っていた。
――――…
『まっつんて、何で煙草吸うてるん?』
『…吸うてみる?』
『嫌や。不味そうやん。』
『お子ちゃまやな。』
『ちゃうわ。』
『はいはい。』
高校時代、放課後の屋上は私達だけの語り場だった。そこから見える夕陽は、いまでも覚えている。
私の通う高校は、県内では進学校と言われる学校だった。適当に真面目で、些細な校則を破る毎日。良い意味でも悪い意味でも、特に目立った生徒もいなかった。
あれは高校2年の頃、初夏だった。その日は厳しい先生に怒られ、私は少々頭にきていた。時が経てば、忘れてしまうような出来事。今でも忘れていないのは、まっつんに出会った日だからなんだろう。
放課後、私は屋上に続く階段に座り、ひとり愚痴っていた。通常、生徒が入れないよう、屋上には鍵がかかっている。だから放課後は、滅多に生徒が来ないこの場所は、私の憩いの場だったりする。
‐ドンッ…!!
『うおッ!?』
ドアの向こうから、何故か人の声が聞こえた。少しの不安と大きな好奇心が手伝って、私はそのドアを開けた。
‐ドンッ…!!
『え……』
どうやら、ドアが彼の腹部にクリーンヒットしたらしい。
『ってぇ…何すんねん!!』
『人が寝とるとか思わへんし!!』
『普通、屋上なんか誰も来ぇへんねん。』
『知らんわ、そんなん!!』
『せやなぁ。』
…納得するんかい。
それ以来、まっつんの秘密基地だった屋上は、二人の場所になった。何故彼が屋上の合鍵を所持していたのかは、未だに謎である。
それを強引に拝借して作った合鍵は、今も小さな箱の中で眠っている。
彼は私よりひとつ上だった。落ち着いた雰囲気も煙草を吸う仕草も、全てが彼を大人に見せた。だから、煙草を吸う事が大人の象徴だと勘違いしたんだ、きっと。
『まっつんて、いつから煙草吸うてるん。』
『中学生くらいやろか。』
彼の目が下を向いた。少し潰れたマイセンが、私の視界にも映る。
『1本ちょうだい。』
『ほい。』
『え………』
『どうせ一口しか吸えへんねんから勿体ない。』
差し出された吸いかけの煙草を、躊躇いつつもくわえる。ほんの一瞬、唇が彼の指に触れた。
『ゲホッ…ゲホッ……にが。』
『ハハッ。ミヤちは裏切らへんなぁ。』
『……いらん。』
『はいはい。』
皮肉っぽく笑う彼から、目が離せなくなった。それは私を惹きつけた、彼の武器だった。