これを愛だと言うのなら-6
朝目覚めた時、隣りに達郎がいた。
裸でお互いの体温を分かち合う様に、手足を絡ませて一つの布団に横たわる。
そんな何年ぶりかの幸せな目覚めに、真奈美は朝から目許を綻ばせた。
「……ん、真奈…美さん」
幾分掠れた声で達郎が目覚めを知らせる。薄く開いた目許から覗く、茶色の瞳が真奈美の心臓をドキドキと脈打たせる。
「おはよう。私、もう行くね」
真奈美は少し恥ずかしくなり、自分の体を隠す様に枕元のバスタオルを体に巻き付ける。
昨晩の名残からか、バスタオルは湿っていてひんやりと冷たい。
そう結局、バスルームだけでは飽き足りず、二人は達郎の布団で体を重ね合わせたのだった。
真奈美は壁に掛かっている時計を見上げる。まだ時刻は5時を回った辺り。
勿論、今日も平日だからお弁当の支度やゴミ出し等すべき事は沢山ある。
キシキシとあちこち痛む身体に、真奈美は少し頬を緩めながらバスルームへと向かった。
「おはよう。泰明、時間よ」
にっこりと笑いながら寝室のカーテンを左右に開く。
眩しい程の朝日が部屋中に満たされた。
「ん、なんか風邪引いた様だ。今日は欠勤する」
ゴロリと反対方向を向き、泰明は毛布を被った。
「大丈夫?買い薬用意するけど病院には行く?」
滅多な事では休まない泰明だから、真奈美は心底心配そうに尋ねる。
「……いい。多分疲れてるんだろう。寝て治す。…それより」
首だけを真奈美に向け、泰明は唇を開いた。
「あいつは起きてるか」
ぐっと真奈美のお腹に力が入った。
バレたのではないか。
言われも無い不安と、胃の辺りを渦巻く不快感に、顔が段々と強張っていくのが解る。
「さ、さあ?まだ見掛けてませんけど」
気がつかれ無い様に、真奈美は泰明に背を向けてカーテンを束ねた。
背中からジリジリと泰明の視線を感じる。
何かをしていなければ耐えられない恐怖。これは真奈美の思い過ごしかも知れないが。
「あいつが起きたら朝飯を食わせてやれ。どうせ、ろくな食生活を送って無いだろうからな」
鼻で笑いながら泰明が言う。ベッドが軋んだ音を聞き、真奈美はゆっくりと振り向いた。
「分かりました。貴方も何か食べないと治りませんよ」
泰明の返事は無いが、真奈美は声をかける。
そうして、にっこりと笑いながら寝室を後にした。
「はぁ……」
ダイニングテーブルにつくと、真奈美は溜め息を漏らした。
あんなにハラハラしたのは何年ぶりだろうかと考えてしまう。
ただ穏やかに過ぎて来たこの五年。
突如現れたつむじ風。
(バレたかしら)
ふと真奈美は思う。
昨夜の情事を忘れたい訳では無い。いや、反対に昨夜はバレてしまっても構わないとさえ思った。
(声だって、響いていた筈なのに)
いくら泰明が泥酔していたとは言え、自分の後輩と妻が絡み合うのを予測出来ない筈が無い。
(私と達郎さんを信じきっているか…)
もしくは
(怒涛の末に即離婚か…)
………