I's love there?-1
―そこに愛はあるのかい？―
再放送で見た古いドラマのセリフが突然頭に浮かんで、私は無意識に立ち止まった。
気がつくといつの間にか雨はやんでいて僅かに青空が覗いている。
「キレイ……」
雲の隙間から漏れる太陽の光に、思わずため息が出た。
同時にいたたまれない思いも襲ってくる。
天使の梯子に似ているその美しい空が、今のみじめな自分を浮き彫りにしているように感じていた。
さしていた傘をたたむと、けだるい体をやっとの思いで動かし、ふたたび歩き出した。
「メール、誰から？」
一時間程前、私は翔太とラブホテルにいた。翔太と私が恋人になって丸二年になる。高校生の私たちにとって、その二年間はけっこう長い。
「猛たちから。……麻衣、わりぃ。今から会ってくるわ」
裸のまま上半身を起こし、頭をかきながら翔太は言った。
“私より友達が大事なの？”
そう言いたい気持ちをぐっとこらえる。感情的になりたくない。醜い自分をさらけ出すのが怖かった。
「うん、わかった。じゃ、先に帰っているね」
作り笑顔が少しひきつったのが自分でもわかる。翔太は、そんな私を複雑そうな顔で見つめている。さすがに後ろめたいのだろう。
ちゅ。
サンキュという言葉とともにフレンチキスが私の頬にふってきた。翔太は床にちらばった服をつかんでシャワーを浴びると、身支度がまだ終わらない私を置いて、ひとり部屋を出て行ってしまった。
靴擦れのせいで足の小指が痛む。前に一歩踏み出すたび、傷みが走ってうまく歩けない。家までの道のりがいつもよりすごく遠く感じて、ただでさえ重い心を一層暗くしていた。
いつからだろう。翔太に我儘を言わなくなったのは。
付き合い始めた頃は自分でも嫌になるほど嫉妬深かった。学校で女の子と話をしている翔太を見かけるたび、怒りが収まらなくて翔太に感情をおもいっきりぶつけることもしばしば。
やがて『矢田麻衣は嫉妬深い』と学校で噂になり、翔太には女友達が寄り付かなくなってしまった。
それでも今まで付き合ってこられたのは、翔太が私を大事にしてくれたから。私が感情的になっても、そのたびに「大好きだよ」と言葉を尽くしてなだめてくれた。そしてたくさんのキスのあと、私の気がすむまでぎゅっと抱きしめてくれた。
その言葉を、もうしばらく聞いていない。嫉妬をしても翔太にぶつけることはしなくなった。がまんできないほどの嫉妬をすることが、もうほとんどない。嫉妬する前に予防線を張ってしまうからなのかもしれない。今日のように―…
付き合っていて楽にはなったけれど、以前の方が愛されていたような気がする。
今私たちを繋ぐものは、いくつかの思い出と、お互いの性格を知り尽くして得た安心感。以前はたしかにあった恋愛感情はどこに行ってしまったのだろう。
今日も本当は、もっとデートらしいことをしたかった。映画を見たりショッピングをしたり、ゆっくり話をしたり。昼すぎに会ってすぐラブホへ直行。することをしたら、それでサヨナラだなんて。これじゃぁ、まるでセフレだよ。