I's love there?-7
やがて強く握られた手が解放されて、私たちは帰りのバスに乗り込んだ。
さっきの女の子たちは誰? とたずねると、とぼけた様子で何のことかわからない、と言った翔太に嫌気が差して喋る気になれず、無言のまま帰宅した。
「これ、ありがとう」
別れ際、手をかざしてにこりと愛想笑いを作る。本当はもう一度あの女の子たちのことを聞きたかったけれど、寸前のところで踏みとどまった。きっと、昔の私だったら聞いていたのだろう。今は羞恥心の方が先にたつ。
おぅ、と返事をした後、翔太は私を抱きしめた。
「麻衣、愛してる」
そうつぶやく声は泣きたそうで。そんな翔太に、私はそれまで抱いていた不信感や自分の気持ちなどはどうでもいいように思えてきた。
帰っていく後ろ姿が、闇にまぎれて見えなくなるまで、私は翔太を見送った。左手には指輪。
―そこに愛はあるのかい?―
こたえは、ますます見えなくなった。
「…ただいま…」
そっとドアを閉めて靴を脱いだ。と、同時に左手の指輪をはずすことも忘れない。お母さんに見つかると何を言われるか。想像しただけで頭が痛くなる。
家に入った瞬間からカレーの匂いが漂っていた。
「げ。またカレー?」
居間にいる母親を見ながらぼそりと言う。カレーは好きだけど。たしか、三日くらいまえもそうじゃなかったっけ?
「あぁ、帰ったの? カレーが嫌なら食べなくてもいいわよ」
私に背中を向けたまま、あしらうようにぼそりと母は言う。
「……食べるよ。着替えてくる」
そう言うと、階段を上がって自分の部屋に行った。
カレーはお兄ちゃんの好物。きっとまた、お兄ちゃんが食べたいと言ったのだろう。
イライラする。お母さんはお兄ちゃんだけが生きがいのような人。物心がついた頃からそうだった。私と違ってお兄ちゃんは出来がいい。お母さんはそんなお兄ちゃんの言いなりで、お兄ちゃんが望むことはなんでも叶えてきた。
同じ兄妹なのに、私に対する態度とは正反対。生んでくれただけでも感謝すべきなんだろうけれど、私はお母さんが大嫌いだった。
(ヤダヤダ。こんな家、早く出たい)
こんなとき、翔太はいつも慰めてくれた。
『俺が必ず麻衣を幸せにするから。ずっと一緒にいような』
そう言って何度も頭を撫でてくれる。そのときの翔太の手がすごく安心できて、私は翔太とすごす未来を待ち遠しくなった。
(翔太に会いたい)
今別れたばかりだから、きっとすぐ駆けつけてくれる。そう思って携帯電話を取り出した手が止まる。さっき別れ際に囁いた翔太の声の感触が、まだ耳に残っている。でも……。
私は力なく椅子に座った。そして携帯電話を開き、電話帳の名前をひとりひとり見ていく。誰かに今の気持ちを聞いてもらいたい。でも電話帳はあっというまに、はじめに戻ってしまった。
ため息が出た。友達はいるのに、悩みを打ち明けられる友人がいない。