I's love there?-2
「けっきょく、この新しい靴もお気に入りのワンピも、あいつは見る暇もなく行っちゃった……」
今日は付き合って丸二年目の記念日だったのに。あいつはきっと覚えてなんかない。
翔太は部活とバイトで忙しい。その合間に友達付き合いも欠かすことはない。行かないで、と我儘を言っても困らせてしまうだけ。
「物分りのいい彼女ヅラも、なんだか疲れたよ、翔太……」
感情を押さえつけることで、私はいつのまにか都合のいい女に成り下がってしまったの? この先、ふたりに待ち受けているのはなんだろう?
翔太は私のことをどう思っているのかな。好きだったら、デート中友達に呼び出されても行かないよね。
―そこに愛はあるのかい?―
愛がなくなったら、別れしか道はない……
ふと浮かんだ考えに、ブンブンと頭を横にふる。
「そんなはずない!翔太はそんなヤツじゃないもん!」
そうは言っても、隣に翔太がいない事実は変わらない。物分りがいいふりをしなければよかった。呼び出された理由をくわしく聞いていれば、まだ自分に言い訳ができたのかもしれないのに。
それとも、昔のように嫉妬心を表面に出して感情的になればよかったの?
そうしたら、また「好きだよ」って言ってくれる?
―もう、無理。歩けない。足が痛い。心が、イタイ―……
一度浮かんだ悪い思考は、簡単に頭から出ていってはくれない。みるみる青空が広がる空とは反対に、私の心はどんどん黒い雲で覆われていった。
「矢田?」
背後から男の声がして、勢いよく振り返った。
「おぉ!? びっくりしたぁ。急に振り返るなよ」
「…サリーちゃん……」
がっかりしてつぶやくように言った。そこにいたのは、中学時代にクラスメイトだった佐藤理(サトウ サトシ)。
私は何を期待したのだろう。あいつは今頃、猛くんたちと一緒にいるはずなのに。
「やっぱり矢田かぁ。おまえ、ちっとも変わってないなぁ。そのちっこい後姿ですぐわかったよ」
自転車にまたがったままの姿勢で私に話しかけてくる。サリーちゃんと会うのは、卒業式以来だから、半年ぶり以上になる。そういえば、さっき声をかけられたとき、サリーちゃんは私を“矢田”って呼んだ。翔太が私をそう呼ぶはずないのに。どうかしている。
「矢田? 聞いてる?」
返事がない私を変に思ったのか、サリーちゃんは顔を覗き込むようにして私を見ている。
「あぁ、ごめん。ちょっとボーっとしてた。…ってそういえば、ちっこいてなによう! サリーちゃんが無駄にでかいんでしょ!」
「反応遅ッ! 今頃かよ。…ボーっとしていたって……。矢田らしくないなぁ。こんなとこにつったって、何してたんだ?」
“らしくない”かぁ。久しぶりに会ったサリーちゃんにはそう見えるのね。
「足が痛くて……。靴擦れしちゃったみたいなんだ」
私は、わざと困った表情で答えた。立ち止まっていたのが、ただ足が痛かっただけだとサリーちゃんに信じてもらうために。
ふぅん、とうなずいてから少し間があった。何を考えているのかな、と私がハラハラしていると、やがてサリーちゃんは自転車を降りて
「んじゃこれに乗っていきなよ」
と言った。
「え?」
まさかサリーちゃんがそんな優しいことをしてくれるなんて思ってもみなかったから、なんて反応したらいいのかわからなかった。