I's love there?-14
『おまえ、誰?』
ふいに冷酷な翔太の顔が鮮明に蘇り、ぞっとした。
『いつこんなの覚えたんだよ。なぁ?』
(いつって、あのときだよ。涼子に取られたくなかったの。だから、涼子になりきってみたの)
急に立ち止まった私を、すぐ後ろを歩いていた人がよけきれずにドンと体当たりしてきた。私は街の雑踏の中をフラフラとさまよっていたのだった。
行くあてもなく、とぼとぼと歩き出す。もう何も考えたくなかった。そして行き着いたのは、繁華街から少し離れた場所にある大きな公園。手入れが行き届いたこの公園はたくさんの木々に囲まれていて、疲れた心と体を癒すのに丁度良いと思った。
あいているベンチに座ると、深いため息をついた。車が走る音が遠のいたように感じる。上を見上げると木の枝が重なって見えた。
癒される場所のはずなのに、私の心は重かった。頭が痛いくらいにいろんなことを考えたのに、今の自分は何をすべきなのかがちっとも見えない。泣きたいのか怒りたいのかさえはっきりせず、かえって気持ちはぐちゃぐちゃだった。
何気なく目をやった先に、女子高生風の子が座っているのが見えた。
(ハナはいつも公園で待っている。たしかそう言っていなかったけ?)
おととい会った女の子は顔を伏せていたけれど、髪型はショートだった。そして、今目の前にいる女の子もショートヘア。
心臓がドクンと大きな音をたてた。
(ヤダ! 見たくない!)
ハナという女が本当にいるということを認めたくなかった。涼子から聞いただけなのに、ハナという子がどんな子か、私は昔からよく知っているような気がした。ハナは昔の自分と重なるのだ。なりふりかまわずに好きと言えるような一途でまっすぐな、涼子が言う『バカ』なところ。
でも一方で、自分と対極している部分がある。『信じる』ということ。どんな情況でも、相手を信じて想いを貫く強さ。
ハナという存在が怖いと感じるのは、きっと適わない、そう感じていたから。
私は走って公園を出て行った。そして近くの停留所からバスに乗り込むと、家の近くにある停留所よりもだいぶ手前でバスを降りた。
頬をさす風が昼間よりもぐっと冷たくなった。日は傾き、太陽は今日も空と街をオレンジ色に染めていく。
その空の下、私は思い出の公園に来ていた。中学生の頃、翔太とここで毎日のように会っていた。はじめてのキスもここだった。今日よりももっと寒い冬の日に、夜が更けても離れずにいて風邪を引いたこともあった。