I's love there?-13
その友人の名前はハナという。恋多き人で、同じ中学に通った三年間だけで二桁の人に恋をし、そのたびにふられ続けてきた。そんなにひどい顔をしているわけではなくて、男運がない上にハナは行動派。アタックしたと思えばすぐに体を許してしまう。つまり、いいように利用されて捨てられることが多かった。
そんなハナが、高校に入ってはじめに好きになったのが他校の人。たまに寄る公園で偶然に出会ったらしい。一目ぼれしたハナは、それから毎日その公園に通った。その努力も実り、名前を聞き出した。男はレイジと名乗った。ハナは舞い上がり、それからも毎日公園に通い続けた。私はいつもとは違って純粋な恋愛をしていることがうれしかった。もちろんハナはいつも純粋。男の方が、いつもとは違う。今回は体目当て、てことがないみたいで安心していた。だけど、それも長くは続かなかった。
ある日曜日、ハナが泣きながら電話をしてきた。レイジがいない、公園で待っていてもこない、と。よくよく聞くと、一晩ラブホテルに泊まって目が覚めたら隣にレイジはいなくて、かわりに一万円が二枚、置いてあった。公園で待っていたら会えるかと思ったけれどこない。家も電話番号も知らないし、どうしよう。そう言って泣いていた。
私はいつものパターンだったなぁ、てがっかりした。でもね、そう考えたのは私だけだった。ハナは本気だったの。いつもはここで泣いて「見る目がなかった」てあきらめるんだけどね。レイジくんはそうじゃない、優しい人だ、て言い張るから、私はハナに会って一緒にレイジを探したの。制服はどんなだったか。どんな髪型をしていたか。ハナは写真がある、と言った。レイジが寝ているときに、携帯電話でこっそり撮ったと言っていた。私、それを見てびっくりした。だって、レイジは翔太くんだったの。どう見ても翔太くんだった。
その場をなんとかごまかして、次の日に翔太くんに聞いたの。翔太くんもすっごくびっくりしていたっけ。隠せないって思ったのね。あっさり白状した。それが今朝のこと。
電車を降りてホームに立ち尽くした。涼子も立ち止まり、私をまっすぐに見ている。電車から降りたたくさんの人が、階段へと押し寄せていく。その雑踏から離れ、私たちはしばらくの間見つめあっていた。
「私、ハナを見ていると、バカだと思う反面、うらやましく思うの。いつも自分の気持ちにまっすぐで、正直で。迷いがない。それがバカだとは思うところでもあるんだけれど」
雑踏が遠くへ去り、しばらくしてぽつりと涼子が言った。その顔は少しさみしそうにも見える。
話を聞き終えても尚、涼子はやっぱり翔太が好きなのでは、という予感が消えなかったのだ。
「ハナ…」
記憶を辿る。あの指輪を買ってもらったとき、翔太は女の子たちを見てびっくりしていた。もしかして、あれがハナ?
「知っているの?」
私の様子が気になったのか、涼子が私に聞いた。
「…もしかして、私、見たかもしれない。…ううん、きっとそう……」
私はそのときのことを話した。涼子は興味深そうに聞いていた。そして、ひとりになりたいと言った私に気遣い、去って行った。
涼子の話を信じたくはないけれど、本当だとすれば辻褄があう。ハナという友達のために翔太と話をして、私は気がついているのかどうか、さぐりをいれていたのだ。
でもそうなると、おとといの夜、翔太が私に言ったのはなんだったのだろう。抱きしめて愛していると言った。涙さえ浮かべて。そして昨日はペアリングまで買ってくれた。
すべて、私にばれないように演技していたのだろうか。ペアリングは私の機嫌を取るため?
少なくても昔の翔太はそんなことができるような人ではなかった。バカがつくほどまっすぐで、一途で。噂話や陰口が大嫌い。そんな裏表のない人だった。
『おまえ、変わったよな』
昼間、翔太は私にそう言ったけれど、本当に変わったのは翔太の方なのかもしれない。私の知らない翔太がいる。それは疑いようのないこと。