I's love there?-11
昼休み、私は翔太と一緒にご飯を食べるため、屋上へ続く階段を登った。涼子の姿を見ていると自分が何をするか自信がなかった。
朝に覗いたあの屋上の扉を開き、外へ出るとすでに翔太が待っていた。
「めずらしいな。屋上で食うなんて。しっかし、いい天気」
そう言って見上げた空は、たしかに雲ひとつない晴天だった。穏やかな日差しが心地良い。こんな日なのに、屋上には私たち以外誰もいない。
いつものように翔太が冗談をまじえて楽しそうに喋るのを聞きながら、昼ごはんを食べた。話の内容もサンドイッチの味もわからない。ただ頭にあるのは、どうやったら涼子に勝てるのか、ということだけだった。
「なぁ、聞いてる?」
突然顔を覗かれて、私はビクッと肩を震わせた。
「うん。聞いているよ?」
「じゃぁ、赤と黒、どっちがいいと思う?」
なんの話だろう。でもきっとたいした話ではない。
「ねぇ、そんなことよりさぁ。この前の続きしようよ」
「……続きって?」
翔太から笑顔が消えた。私はそんなことに気づかず、更に続ける。
「…こ・れ……」
言いながら、翔太の膝の上にまたがった。そして両手で翔太の頭を抱え込む。
上から翔太を見下ろし、ねっとりと視線を落としたまま、濃厚なキスをした。
はじめは戸惑った様子だった翔太も、次第に舌を絡ませてくる。こうしている間にも、私の心には涼子が棲み続けていた。
やがて背中にあった翔太の両腕がするすると離れた。そして次の瞬間。胸をどんと押され、私は弾き飛ばされた。コンクリートの床に背中を強く打って仰向けに倒れる。ぶたれた胸が痛み、息苦しさでげほげほと咳き込んだ。
「おまえ、誰?」
冷酷な翔太の声。
「いつこんなの覚えたんだよ。なぁ?」
私は言葉が出ない。
「……おまえ、変わったよな。昔はこんなことをできるようなやつじゃなかったのに」
のそのそと起き上がると、私をさげすんで見る翔太が見えた。
全身に鳥肌が立った。こんな顔の翔太を見るのははじめてだ。しかも、そんな顔をさせたのは自分自身なのだ……
「だったら……」
ふつふつと怒りが込み上げてくる。私は震えそうになる声を張り上げて叫んだ。
「だったら自分はどうなのよ? コソコソと何を隠しているの! 私が知らないと思って
……」
言いながら、涙が溢れてきた。それがどんな涙なのかわからずに、しゃくりあげながら続ける。
「自分のことは棚にあげて! そんなに私が嫌なら別れればいいでしょう! よろこんで別れてあげるよ!」
左手の指輪を抜くと翔太へめがけて投げつけ、私は屋上を飛び出した。あわてて降りる階段を何度か転びそうになりながら必死で下りると、そのままトイレへ駆け込んだ。