I's love there?-10
「でも、そうね。三日間猶予をあげる。その間にじっくり考えるのね。でもそれ以上は無理。私にあの子は止められない」
(なんの話をしているの……?)
体が震えているのがわかる。それが怒りからくるのではなかった。自分の知らないところで何かが起こっていることに対する、わけのわからない不安や孤独感からくるものだった。
今すぐにでもドアを開けてふたりに問いただしたいのをやっとの思いで振り切った私は、震える足を、一歩一歩音を立てないよう慎重に階段を降りていった。
すでにチャイムが鳴っていたようで、どの階の廊下も静まりかえり、私はその静寂に不気味なものを感じた。
朝のホームルームはそのままさぼり、一時間目が始まる前に教室に入った。
涼子が教室に表れたのは二時間目がはじまる前の休み時間だった。
私はその間、涼子とどう接したらよいか考えに考え、今はとりあえず何も聞かなかったふりをして様子を見ることに決めた。涼子と翔太がどんな関係なのか、はっきりとした証拠がないかぎり、涼子はしらを切りとおすだろう。彼女はそんな人なのだ。
「鞄だけ置いてどこに行っていたの?」
そう涼子に聞きながら、わざと目につくように左手で髪をかき上げた。太陽の光できらりと指輪が光る。
「保健室に行っていたの。アレがひどくて」
腰に手をあてて眉を歪めながら涼子は言った。指輪の存在に気がついたのかどうか、わからない。
「もう、大丈夫なの? 生理とはいえ、辛かったら無理せず帰ったほうがいいよ」
さも優しそうな笑顔を作り、私は応じる。きっと、目は笑っていないのだろう。
(翔太は誰にも渡さない、絶対に)
心の中で、そう呟いた。
今年の春この学校に入学したときに、はじめて話したのが涼子だった。私は矢田、涼子は三浦。出席番号が一番違いで、どちらともなく口をきいていた。キリッと凛々しい涼子の顔は美人の部類に入るだろう。一見とっつきにくいように見えるけれど、どこか自分と似たものを感じた。それが何なのか、今でもわからないでいる。
国語の授業が始まった。私は穂杖をついて涼子の後ろ姿を眺めた。肩まである自慢のストレートの髪は、窓から射し込む暖かな光を受けてつやつやと輝いている。その綺麗な髪が私をイライラさせた。姿勢よく座るその背中すら憎らしくて、今すぐにも大声で罵り、化けの皮を剥がしてしまいたいたいと思った。
涼子はどうやって翔太を誘惑したのだろう。自分は一途だと公言するあの翔太が、そう簡単におちるはずはない。
色仕掛けだったらどうだろう?
形のよい胸を翔太の体に押し付けてキスをする涼子の姿が鮮明に頭に浮かんだ。
私は、ふたたび目の前にいる涼子をめちゃくちゃに罵りたい衝動に駆られ、その怒りはなかなかおさまってはくれなかった。