霞台東高校、恋愛研究部。No.0-2
「…面白そうな部活だね」
一通り紹介文を読み終えると、ボクは精一杯の作り笑いを浮かべてそう言った。
…なんだこのヘンテコな部活は。
『活動内容 恋愛について調査・実験等を行い、それをレポートを行う。』?
恋愛についての調査・実験とは一体どういったのものを指すのだろう。
部員同士で恋愛ごっこでもすると言うのだろうか?
…いや、部活動紹介の紙を見る限りでは部員は全員女なので、それは考えにくい。
なら一体…。
……いや、どうでもいいことじゃないか、そんなこと。
活動内容が謎という点では、確かに興味をそそられる部活ではあるが、
廃部寸前の部活に入るなどいうことは物好きの行うことだ。
ボクは普通でなければならない。
「でも、なんか備考の欄に今年で廃部って書いてあるけど」
「もう、鳳君ってば良く読みなよ。5人以上の入部が無い場合、って書いてあるでしょ」
どっちも似たようなものじゃないか。
こんなヘンテコな部活、今年度に5人もの人間が入部する可能性なんて0に近いはずだ。
「あー…、本当だ。そっか、じゃああと4人集まるといいね。」
「そこで鳳君に相談なんだけど。」
「……なに?」
嫌な予感が全身を走った。
ボクの身体の細胞全てが、早急にこの状況から離脱せよ、と繰り返し告げている。
藍原はそんなボクにはおかまいなしで話を先へ進める。
「ここの部長の棗さん、あ、つまり立花先輩ね。
昔からの知り合いで、かなりお世話になってる人なんだけど。
その人になるべく部員を集めるようにってお願いされちゃってるんだよねー。
うん、まぁ、私はどうせこの部活に入るつもりだったから丁度いい話なんだけどさ、
なんか男子の部員も探してるみたいで。ほら、部員には女子しかいなかったでしょ?
だから鳳君特に入りたい部活がないんならさ、どう?恋愛研究部に入るって言うのは」
「…いや遠慮しとくよ、悪いけどさ。色々忙しくなりそうだし」
別に聞いてもいない事情をくどくどと話終えた後、
ボクは間髪入れずに、出来るだけソフトに拒否を表した。
それがいけなかったのだろうか、藍原は簡単には引き下がらない。
「まぁ、そう言わずにさー。絶対楽しいって。
活動日程とか活動時間もそう多いわけじゃないよ?」
「うーん…でも何やってるかわかんないとこに入るつもりないし…」
そう言い終えた後、ボクは全身から血の気が引いていくのがわかった。
…本当にあるんだな、こういう状況って。
なんでこんなことを言ってしまったんだろう。
こんなこと言ってしまったら、藍原はこう言うに決まってるじゃないか。
「じゃあ、放課後一緒に部活動を見に行こうよ!」
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校舎がHR棟と事務棟に分かれているこの学校では、
文化部の部室のほとんどは事務棟の方にあるようだ。
それに伴い放課後の事務棟は、文化部の生徒達で賑やかになるらしく、校内放送で度々、
「ただ今会議室にて職員会議中です。事務棟で活動中の部活は静かに活動するように。」
といった注意を促されていた。
「あ、ここだ。国語準備室。」
ボクの2・3歩前を歩く藍原がその足を止めた。
あの後、結局ボクは藍原の勢いに押され、しぶしぶ部活動見学を承諾した。
まぁ、これも運命だと思って諦めるしかないか。
なにも入部するという訳ではないのだ。
あくまで部活動を見学しに来たと言うだけのこと。
「失礼しまーす」
部屋の中からの返事も待たずにドアを勢い良く開ける藍原。
何気なく見た準備室内。
ボクは思わずその場で硬直してしまった。
…誰だかわからないが女子が着替えている。
上着を脱いでる途中らしかったので顔は見えなかったが、
その下に着けている真っ白の下着は完全に露になっていて、
その光景は健全な男子高校生の脳にはあまりにも強すぎる刺激だった。