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■LOVE PHANTOM ■
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■LOVE PHANTOM■二章■-1

冬が近づいているのか、今朝は一段と冷え込んでいる。窓ガラスの外側には、大きな結晶のように霜が降りていた。靜里は、一人暮らしをしているため、家族の誰かに朝食を作ってもらうなど、甘えるということは決してできない身だった。そのため、どんなに寒い朝でも、いつまでも布団の温もりに包まれていることは出来ずに朝食も自分で手掛けなければならなかった。とはいっても、料理をすることを決しておっくうとは思わない靜里は、それまでも楽しんでやっていた。また時間があるときなどは、このアパートに移る前、母親から貰い受けた料理の本で新しい料理を試みたりもした。
靜里は、そろりとカーテンを開け、次に窓を少し開けて見た。すると、待っていましたとでも言いたいように、外の冷たい空気が部屋の中へと流れ込んできた。その流れに触れたカーテンは一度、二度と大きく翻りその姿を靜里に見せている。
靜里は小さく肩を震わせると、窓を閉めた。
「もうすぐ雪が降るかもね」
独り言のように、笑いながら靜里は言う。
「昨日の叶って人・・おかしな人だったな。何か妙に私のこと慕ってたし」
昨日あった出来事を、再び頭の中でその記憶をたどりながらベッドから飛び降り、そそくさと靜里は今日着て行く服を目についた順に手に取った。上下白に統一されたその姿はシンプルこそが一番のお洒落と考えている靜里ならではの服装であった。
「今日はこれでいいよね」
そう言うと彼女は何度か、タンスの横においてある大きく縦に長い鏡の前でくるくると回って見た。それに合わせて長く綺麗な髪の毛が泳いでいる。彼女は今日、大学の講義が始まる前に近くの街へ出て、指輪をひとつ買おうと思っていた。前から、アクセサリーの一つくらいはもっておかなければと思ってはいたのだが、何せ装飾品の嫌いな靜里は他の人がそれをつけているということだけで、いい気分はしなかったのだからそれを自分が付けるなどということはもってのほかだった。そんな彼女が、急に指輪を買ってみようと思い立ったのは先週の法学の講義がきっかけである。週に一度の法学は靜里にとって、数多くの専攻科目の中でも一番興味のある時間になっていた。別に授業の内容がどうこうという訳ではなく、それを担当している講師に方に興味があったのだ。講師の名は浅田 恋華といって、年齢は(大学講師の中では)まだ若く、校内では若きエリートとして有名な人物でもあった。・・とはいっても、大学の講師になるにはそれだけの時間が必要であり。よって彼女も決して、「若い女性」ではなかった。それでもはりのある肌や、ぱっちりとしたその瞳は、浅田の年齢を若返らせて見せている。ゆえに、彼女に恋をする学生も少なくはなく、いつも授業が終わると周りには生徒が取り巻くようにして集まっていた。 靜里もまた、彼女に好意をもっていた。それはある意味で尊敬に通じるものでもあった。彼女はよく授業で、自分の若いころの話をしては生徒達を笑いの渦へ巻き込み、いつのまにか靜里もその中の一人となっていた。しかし彼女の、浅田に対する好意とはそんなことではない。彼女にたいして最も関心があったのは、おしゃれに関することであった。そしてそれは、服装ではなくて装飾品を意味している。浅田はいつも、ただ一つのアクセサリーしか付けてこない。ある時は一つの指輪、そしてある時は一つのピアスなど。種類はそのときによってさまざまではあるが、一つという共通点は変わらなかった。けれどもそれが妙に、靜里の目には格好よく映り、いつしかこのファッションが気に入ってしまっていたのだ。体中にいろんな物を纏い、きらびやかに見せるよりも、ひとつ何かを光らせる方がよっぽど綺麗に見えた。そして「自分もそんなふうになって見たい」「そんなふうに見られたい」そんな思いを込めて、彼女は今日買い物に出掛けようと思ったのだった。
その買い物につき会うと言ったのは幸子だった。別に彼女も靜里と同じ考えをもっているという訳でもなく、ただついて行きたいだけであろう。 昔からそうだった。
小学校から親友として側にいた幸子は、その外見とは裏腹に極度な寂しがりやだったのだ。どこへ行くにも靜里の後ろについていた。
中にはそれを嫌がって、幸子を避ける者もいたが靜里は幸子のそんなところが一番好きだった。それは多分、自分の中にも同じものがあると感じているからだろう。
今日も待ち合わせ場所は、十時に、いつもの「OZ」という喫茶店である。
靜里は、ベッドのうえにおいてある時計を見た後、玄関の戸を開けた。外はやはり肌寒く、時折吹いてくる風は、靜里の小さな肩をよりちぢませる。彼女が空を見げると、雲の切れ間から小さな太陽が、暖かな光を地上へとそそいてくれた。


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