『好き』の言の葉(ことのは)争奪戦!-5
5 初めて感じる感触に『あっ…!』と高い声を放って、無意識に雅紀の肩にしがみついた。
雅紀はそんな俺を弄ぶかのように、それを手の筒で擦り、手早く駆り立てる。
頭の中は、『やめてくれ!』と叫んでいるのに、身体は正直に雅紀の弱点ばかりを侵してくる指の動きに煽られ、熱を増していく。
「はぁっ…あっ…もう…やめ……っ」
途切れ途切れに喘ぐ俺を、暫く嬉しそうに覗き込んでいた雅紀が、いったん手を緩めた。
俺は、助かったと安堵し、詰めていた息をはぁっと吐く。
雅紀は、手の中の、俺の中心部の先端から、溢れた蜜を親指の腹でそっと拭い取り、もう一度俺を見据え、舌でペロリと舐めて見せる。
「ば、ばか!!変なコトすんな!」
真っ赤に茹で上がって怒る俺を涼しげに口元をほころばせていた見た雅紀が、少し腰を持ち上げたかと思うと、スルリと俺の身体の下から抜けた。
「何だ?」と思った時にはもう、俺の身体は浴室の冷たいタイルの上に仰向けに転がされていた。
覗き込んできた雅紀の顔は、まるで、サバンナを駆けるハンターのような鋭い眼光を放っていて、『狙った獲物は逃さない』…そう宣言されたようで、逃走心を失わせる。
俺は『はぁ〜』っと、諦めにも、期待にも取れる、深い吐息を放った。
そんな俺の態度をどう捕らえたのか、雅紀はニヤリと笑みを浮かべ、不意に視界から消える。
次の瞬間、ヌルリとした熱い感触に身体が仰け反るのを感じた。
「あぁっ…何やってんだよ!…やだ…あっ…っ」
広げられた下肢の間に入り込んだ雅紀の口腔にスルリとそれは吸い込まれ、敏感な部分にねっとりと舌が絡み付いてくる。
その、暖かく濡れた感触に、あっさり理性を奪われてしまう。
内股の柔らかい部分にあたる雅紀の髪の毛が、皮膚の神経を刺激して…そんな些細な刺激さえ立派な起爆剤になっていく。
「んっ、ま…さき…もぅ…ダメ……」
唇で上下に攻め立てられれば、気が狂いそうな程の快感が身を焦がし、絶頂の波が打ち寄せる。
わざと音を立てて嬲られるピチャリという音に、もはや五感全てを侵され、支える術を失った欲望が堕ちていくのにそう時間はかからなかった。
「はぁっ!雅紀!…あっ…あっ…っ!」
『くぅっ!』と小さく叫んで身体を強張らせ、雅紀の背中に爪を立てた俺は、全身を震わせて雅紀の口腔に白い蜜を撒き散らす。
身体から放たれた液体が、一体雅紀の中でどうなってしまったのかなんて、もう、分からない。
はぁ、はぁっと肩で息をしながら例えようのない爽快感と疲労感に苛まれ、ぐったりと四肢を投げ出しているだけの俺に、優しく微笑む雅紀の顔が飛び込む。
睡魔にも似た気だるさに、そっと目を閉じる。
優しく触れる唇……
しかし、それは直ぐに離れ、ゆるゆると目を開けると雅紀の顔は無く、かわりに高々と掲げられた自分の足が視界に飛び込む。
未だ、快感の痺れに身体を支配されていた俺は、自分がどんな格好をしているのか理解出来ずにいた。
暫くして、ドロリとした感触が下肢の間をゆっくりと流れ落ち、下の窪みを濡らしていく。
俺はその正体が、先程、雅紀に一滴残らずすすり採られた、自分の欲望の残骸だと気付き愕然とした。
これから何が起きるのか…焦って後へと引き返そうとしたその時、下腹部に受けた鈍い痛みが脳天を直撃し、「わぁっ!」と叫んで、身を屈める。
「朝月…大丈夫だよ。大丈夫…」
口腔内が自由になった雅紀の口から発せられた言葉が、たおやかに耳元を彷徨うと、強張った気持ちが蕩けてしまう。
その隙を狙い、長い指が俺の後ろに這わされ、ジワリジワリとうずめられていく感触がリアルに感じられ、歯を食いしばる。
傍若無人に振舞う侵入物は、奥へ奥へと突き進み、その指先は、まるで火花を散らしているかのように熱く、巧みに孔を攻め立てる。
「ふぁっ…はっ…やだ…あ、熱い…」
熱に侵され、うわ言の様に『熱い、熱い』と繰り返した。
「あ…こんなの…変だよ……まさ…き…」
小指でぶら下る理性がこの場に及んで未だ逡巡している。
「変じゃないよ、俺もお前も人間なんだ。おかしいことはひとつもないよ」
この状態で発せられた、雅紀のこの言葉を、真鍋が聞いたらどんなに喜ぶだろうと、あのニヒルな笑顔を思い出し、悔しくて心の中で地団駄を踏んだ。
「あっ、でも…雅紀…俺……」
快感でおかしくなってしまいそうだと言いかけて、やめた。
そんなことを言って、雅紀の行動に拍車をかけてしまっては大変だ。
「朝月、お前、俺のこと好きって言ってくれないんだな」
「ん…っ……い、言わない…」
こんな酷いことをされて、絶対言ってやるもんかと心に誓い、大げさに首を左右に振ってみせる。
ニヤリとイヤラシく笑った雅紀の顔が目の端に飛び込んで、うっと息を飲んだ。