刃に心《第4話・何処より来たりし黒郵便》-5
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「御苦労様で御座います」
メールを送ってから数分後。暗がりから、一人の男が出現。疾風と同じく黒装束を着込んでおり、顔に嵌めた仮面の為、くぐもった声だった。それに疾風は大して驚くこともせず、軽く会釈した。
「確認致しました。謝礼となります」
気を失った男を片手で担ぎ上げると、懐から茶封筒を出して疾風に差し出す。
「どうも」
疾風は封筒を受け取った。中身は言うまでも無い。
「また…いずれ…」
溶ける様に男は暗闇に去っていった。
「さあ、帰るか」
頭のスイッチを切り、覆面を外した。
「んん〜ん!」
一度、大きく伸びをすると疾風は街の中へと紛れていった。
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月が世界を照らす中、疾風がのんびりと夜気を感じながら家路についていた。
ポケッ〜した表情からは先程までの動きや、殺気は微塵も感じられない。
我が家が見えてきたと思った時、疾風は霞が家の前でキョロキョロと左右を見ているのに気付いた。
「あっ!兄貴!」
霞が疾風に気付き、駆け寄ってきた。
「何やってんだ?」
不審に思った疾風が尋ねる。
「ようやく帰ってきたか…」
疾風の問いに答えず、霞は、はぁ…と安堵の溜め息を吐いた。
「いいから早く!!」
無理やり疾風の腕を掴みズルズルと玄関まで引きずる。そして、早く開けろと目で催促。
よく事情が分からないまま疾風がドアを開いた。
ぶあッ…と家の中に溜め込まれていた殺気が溢れて疾風を襲う。
「な、何だ!?」
思わず、身構える疾風。恐る恐る入った中で、疾風が見たものは…
「楓…?」
楓が俯きながら、玄関で正座していた。
「私が帰ってきた時からずっとあんな調子。お陰で家の中が居心地悪くて…」
疾風の後ろで霞がうんざりとした口調でぼやいた。
「あ、あの〜…」
「遅かったではないか…」
楓は顔を上げた。口許は固く結ばれ、その目はじと〜っと疾風を睨んでいた。