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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第4話・何処より来たりし黒郵便》-4

相手は少しずつ人のいない場所へ向かっていた。
男はポケットに手を突っ込み、愛刀を確認する。これまでに3人の血を吸ったナイフだった。
相手が路地裏に入った。
男の唇がますます歪む。相手が入ったその先は袋小路。
我慢できずに走り出した。ポケットから手を引き抜き、ナイフを取り出す。
路地裏の袋小路に入った。ぶつかった相手が背を向けていた。

「テメェ、人にぶつかっといて挨拶も無しかよ」

不快な笑いと共に、ナイフを構えた。相手が振り向いた。その目には驚きと恐怖が浮かんでいるはずだった…

「ッ!テメェ…何だ、その目はよぉ!」

だが、そこにあったのは冷たい視線。何の変哲もない眼鏡の奥の瞳からそれは発せられていた。

ナメられている…

男はそう感じ取った。

イライラする…イライラする…イライラする…イライラする!

怒りが頂点に達し、男はナイフを振りかぶった。そのまま相手目掛けて一直線に振り下ろした。

◆◇◆◇◆◇◆◇

男のナイフがゆっくりと落ちてきた。疾風は左前に足を運び、僅かな動作で躱した。
男はそれに気付くと、顔色を怒りの赤に変えながら無茶苦茶に刃を振り回す。だが、当たらない。ヒラヒラと宙に舞う木の葉の如く、疾風は斬線を躱していく。
ますます、怒りに支配された男はナイフを真っ直ぐに突き出した。しかし、刃は虚しく空を突く。疾風の姿はそこに無かった。

男が疾風の姿が無いことに気付くまで1秒。
さらに男が疾風の姿を見つけるまでに2秒。
計3秒の刹那…

男の頭上を宙返りする疾風にとっては長いくらいの刹那だった。

───シャラン!

澄んだ金属音。男の耳にそれが届いた時にはもうすでに鎖が男の胴を襲っていた。
蛇の様に、複雑に絡み付いた鎖はギチギチと男の喉と両腕とあばらを締め上げる。

「かはッ…」

いきなり鎖と腕に身体が圧迫され、男は肺の中の空気を全て吐き出し、沈黙する。支える力を失った身体は膝から崩れ落ち、バタンと倒れ込んだ。

「任務終了」

男の背後で疾風がポツリと告げた。軽く腕を振った。すると、鎖が意思を持った様に動きだし、匕首が手の中に吸い込まれた。装備を正すと携帯を取り出して、機関へメール。男の口許に手を翳し、息を確かめた。
微弱だが、生きている証拠があった。


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