刃に心《第4話・何処より来たりし黒郵便》-3
「…身元が割れてるのか…でも、証拠不十分、その他諸々でウチに回ってきたと…」
同封されていた写真を見ながら疾風が呟いた。
利権、誇り、権力…様々な事情が複雑に絡み合う世界。時には公に調査することが難しい事件も裏では多々存在する。そういう理由から処理屋の依頼は絶えない。
「内容把握」
そう呟き、近く置いてあった父のライターと灰皿を手に取る。
シュッボッとライターが火炎を吹いた。郵便をその高熱の息吹に当てる。勢いよく燃える郵便は瞬時に情報と共に灰燼に帰した。
「さてと…」
鞄を持って自分の部屋へ。自分の部屋に着くと、疾風は学生服を脱ぎ、クローゼットを開いた。
外は黄昏。それを考慮し忍者服ではなく、黒い普通の服。忍者服はこの時刻ではかえって目立ってしまうと思ったからだ。
…闇夜だから目立たないというわけではないと思うのだが…
「仕方ないじゃん。忍者の正装なんだから」
まあ、ごもっともで。
「アレはアレで動きやすいから嫌いじゃないけどね」
今度は引きだしを開けた。ズラリと並ぶ暗器の数々。その中から柄から鎖の伸びる、特製の匕首を取り出し、鎖の先の輪を腕にはめた。その上からさらに黒い上着を羽織り、鎖を隠す。
「よし」
最後に口許を隠す覆面をポケットに押し込んで、家を出る。
「楓は鍵持たしてあるから大丈夫だな」
戸締まりを確認。
疾風の脳内で、カチッ…とスイッチが入った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
完全に日は落ちた。
それに対し、街の灯は煌々と落ちることを知らない。
「目標視認」
寂れたビルの屋上。疾風の鋭い視線がターゲットを狙う。相手は痩せた男。少々、頬はこけており、血色は良くない。
「任務開始」
月光が僅かの間、雲に遮られた。次に屋上を月光が照らした時には疾風の姿は無かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
男は雑踏の中を歩いていた。
ゴチャゴチャとしていて落ち着かない。イライラする。
そんな感情を隠しながら、あても無く彷徨い歩く。男は角を曲ろうとした。しかし、曲った瞬間に何かに進路を妨げられた。ドンッ…という衝撃と共に何かが───いや、何者かがぶつかった。そしてそのまま何の挨拶も無く去って行く。高校生のくらいの少年。その姿を目に焼き付けると、男は行き先を決めた。
そういえば、今までの奴等も俺の邪魔をしたからな…
不気味に唇を歪めると踵を返し、一定の距離を保ちながら相手を追う。
男はただ、理由を欲していた…