わたしと幽霊 -花-(後)-4
…ぱぁん！
あたしは…彼の横面をひっぱたいていた。
目を真ん丸にして、あたしを見上げる彼。
「死んじゃえなんて…軽々しく言わないで…」
あたしも…じわりと泣きながら。
彼の視線を受けとめていた。
『ご、ごめん…』
興奮して赤らんだ彼の頬に残る、赤い跡。
俯いた彼を見て、あたしははっとする。
「…あっ……」
慌てて、自分の手を見つめる。
『ひっ…ひぐっ…』
彼がしゃくり声をあげ始めた。
「ご…ごめんなさ…」
あたしも泣きそうになりながら、彼の背中をさすり…
『ううぇ〜ん…』
泣きだす彼の横で。
「ごめんってばぁ〜わぁぁ〜ん…」
あたしまで泣き始めた…
遠くで、げっそりとこっちを眺めている高谷さんの視線に気付き、恥ずかしさとかなんか…
もうワケが分かんなくなってきて、頭の中が目茶苦茶になってきて。
あたしは少年と一緒になって、しばらくそのまま泣き続けていた。
――やがて泣き晴らしたあたし達。
「じ、じゃ…行こっか」
差し出したあたしの手を、素直に握る彼。
『うん…』
そして、あたしと高谷さんと和輝さん。
一つだけ引き伸ばされた影を引きつれて――
あたし達は、八代病院に向かった。
『これが…オレ？』
不思議そうな表情で、壊れ物を扱うようにそっと自分の顔を触ってる和輝さん。
「そう。11年後のあなた…だね」
目の前には大きく成長した自分がいるって…タイムスリップしたような、不思議な感覚なんだろうなぁ。
「戻り方分かる？」
尋ねるあたし。
…なんか変な質問。
『うん…たぶん』
自信なさげな彼。
「戻りたいという気持ちがあれば、自然と肉体の方から受け入れる筈だ」
頼もしい一言の高谷さん。
和輝さんは、こくりと頷き――
眠っている自分の躰に手を差し伸べ、ゆっくりと溶け込むように入ってゆく。
「……………」
どう……？
目を閉ざしたままの彼の顔をじっと見守るあたし。
「和輝さ〜〜ん？」
彼の鼻をつんつんしてみる。
「待てんのか…お前は」
高谷さんに呆れられた。
だってぇ……
――そして、あたし達が見守る中、彼は11年ぶりに――
無事、現世への帰還を遂げたのだった。
…そしてそのあと。
目覚めた和輝さんに、あたし達が病院を出た頃にコールボタンを押すように言ったから、今頃は――
できれば、和輝さんと彩香さんの再会シーンとか見たかったけど…
また様子見に来るから、ねっ。
二人の様子を思い浮べ、にこにこ笑うあたし。
というワケで、めでたし、めでたし――…