深紅の新薬・人体実験-3
スルリとシャツを押し上げる感触に、『あっ…』と声を上げ、身体はビクッと反応する。
布団に深く沈んだ身体に触れるその手の冷たさに、自分の身体が熱くなってることを実感する。
『この状況を納得いくように説明して欲しい』と訴えたくて口を開くと、彼の熱い唇が首筋を這い、俺はあっけなく言葉を失い、『うんっ…あっ』と自分でも驚くような甘い吐息を吐き出す。
そして、ゆっくりと滑り落ちた手のひらが、下肢の間にとどいた時、分身から脳神経めがけて電気が走る。
これは、あの薬のせいだ…自分に言い聞かす。
だって、さっき路地裏で犯(や)られると感じた時は、死んでも嫌だと思った。
でも、今は…俺の上で体中をくまなく蠢くその唇にボーッとなっている自分がいる。
逃げようと思えばいくらでも逃げられるのに…そう思わないのは何故?
「あの薬はね『脳内ホルモン活性剤』だよ。ドーパミンって知ってる?」
といきなり問いかけられ、恥ずかしさで手のひらで覆い尽くしていた顔を上げる。
『聞いた事はあります』と言いかけて、俺は再び言葉を失い、代わりに『はぁっ!!』と叫んで身体をくの字に曲げる。
身体の奥に侵入した彼の指に、身体はこの上ない違和感を露にして『痛い』とその指を締め付ける。
「やだ…水野さ…んあっ…」
「ノルアドレナリンという不安や恐怖を感じると分泌される戦闘系ホルモンがあって、それは興奮時に一気に増加するんだ。すると、不快を和らげる為にドーパミンという脳内ホルモンが分泌される。ドーパミンは、覚せい剤に似た分子構造を持っているから脳内麻薬とも呼ばれていて、人を快感の虜にさせる。ドーパミンの虜になった人を「依存症」という。つまり、不安や恐怖を強く感じれば感じるほど、ノルアドレナリンを沢山放出する。すると、ドーパミンも沢山分泌されてより強い快感を得る事が出来るということだ。今の君は、まさにその『ドーパミンの虜』だね」
俺がこんなに熱い吐息を吐いていても、必死で『止めて』と叫んでも、何も聞こえないかのように、説明を続け、更に深く深く指を刺し込む。
その度に、体中に熱い電気が走り、とうとう俺は、彼の背中にしがみ付いた。
不安も恐怖も最高潮に達している俺が、彼の言う『ドーパミン』という脳内麻薬に身体を蝕まれていることは、水野さんの、手の中で既に限界だと叫んでいる俺の分身が示している。
「あっ…もう…やめ…て。こんなの…おかしいよ」
こんな屈辱的なことをされているのに、感じて、今にも射精(イ)ってしましそうな自分の身体が一番わからない。
「おかしくなんかないよ。男だったらみんなそうなんだ。前立腺を直接刺激されると気持ちよくなるのは、生物学的にも証明できることだからね」
せ、生物学的なんて言われても…さらに困惑する俺を見て、クスクスと笑う水野さんが、俺の脚を軽々と持ち上げて、ぐっと体重をかけてきた。
そして、耳元で囁く。
「かわいいね。笹村奏太君」
「待ってよ。な、何で俺のフルネーム知ってるの?」
「それはね…」
そ、それは…?
そう…油断していたんだ。
微笑む水野さんの口から発せられる次の言葉に神経を集中させ、身体の力を抜いてしまったその僅かな隙を突かれてしまった。
下肢の小さな器官を引き裂かれる痛みに、驚いて息を吸ったまま目を見開き固まった。
「だめだよ、奏太。力入れちゃ、君が痛いだけだよ」
「だって…」
「奏太…もう、逃げられないんだ。受け入れるしかないんだよ」
優しく身体を包み込みながら低い声でそう呟かれて…巧みなキスに翻弄されて、深い穴に落ちていく…そんな感覚に襲われていた。