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In the moment −hirotaka−
【純愛 恋愛小説】

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In the moment −mikoto−-1

最近、左胸がひどく痛む。
手術の跡が、冬の寒さのせいでそうなるのかもしれないし、ひょっとするとほかの理由からかも知れない。
私はパジャマの上にカーディガンを着込むと、ベッドで寝息をたてている未貴の寝顔を見つめた。小さな口をぽっかりとあけて、気持ち良さそうに寝入っている。
「ねえ」
私は彼女のほっぺたに触れながら呟いた。
「どんな夢を見ているの?」
娘が、パパに会いたいと言ったのはつい最近のことだ。そんなこと、今まで一度だって言ったことなかったのに。多分、幼稚園で友達に何か言われたんだと思う。父親がいないせいでいじめられたり、コンプレックスになったりしないかと心配だ。
「ごめんね」
私は立ち上がり、机の引き出しに隠してあった一枚の写真を奥から引っ張り出して、見つめた。それは私と私の恋人だった弘貴が写っている写真だった。確か、私の誕生日に撮った私の宝物だ。他にも写真はあったけれど、これが一番気に入っていた。写りがいいというか、つまりお互いの年齢差があまり出ていない写真だったのだ。
明日、未貴に伝えよう。
この人があなたのパパだよ、と。あなたの名前は、ママとパパの名前から一字ずつとって未貴なんだよ、と。
果たしてそれだけで、この子が納得してくれるかは分からないけれど仕方がない。
他にどう説明していいのかもわからないのだから。 再び写真をしまい入れ、窓辺へ向かった。カーテンをあけると、ゆっくりと雪が落ちてきている。この空はあの人の頭上にも広がっている。それを思うだけで胸が熱くなった。 今頃どうしているだろう。突然いなくなった私を怒っているだろうか。ひょっとすると、憎んでいるかもしれない。それとも、もう忘れてしまっただろうか。過去の恋人は忘れて、そんなことはなかったことにして、新しい恋を始めているだろうか。
なんだか刺々しい気持ちになって、思わず苦笑いがもれた。嫉妬するなんて、おかしい。身を引いたのは私の方なのに。彼を裏切ったのは、私なのに。
「弘貴」
彼の名前を口にするだけで、涙があふれそうだった。世界は人が思うよりずっと狭いから、しかもお互いの距離はそう離れていないから、この先どこかで再会することもあるかもしれない。その時、私はなんて言うだろう。笑うだろうか。何も言えずかたまるだろうか。 それとも、無視されてしまうだろうか。
出来るなら、もう一度だけ会いたい、と思う。会ってはいけないと思いつつ、一方ではそれを切に願う私が、いた。
「会いたいよ。弘貴」
額を窓にくっつけて、私はそっと呟く。
窓の外は、ゆっくりと白に染まっていく。


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