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In the moment −hirotaka−
【純愛 恋愛小説】

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In the moment −hirotaka−-4

当時、僕はまだ成人すらしていない学生で、しかも彼女は体も弱く一歩間違えれば責任のなにもかもが僕に押し寄せてくる可能性があった。かといって理由を話せば、僕は間違いなく彼女との将来を決めていた。未琴は僕の未来を、選択肢が山ほど用意されているはずの僕の未来を奪いたくはなかったのだ、と彼女の母親は教えてくれた。
そのせいで、彼女は随分と両親を困らせたらしい。相手の名前も居所も言わず、僕の顔ですら、未貴が生まれてからようやく写真で見せたくらい、頑なに僕のことを隠し通した。 そんな彼女の気持ちも知らず、僕は一人でいったい何をしていたんだろう。恨んだり、いじけたり。本当の被害者は、彼女の方だったのに。皮膚までひっぺがしていきそうな冷たい風が、僕の頬を撫でていった。
「ねえ、パパ」
胸のところで、僕を見上げながら未貴が呼んだ。彼女の小さな手には、普通よりひとまわり小さな一枚の写真が握られていた。
「これね、ママとパパなんだよ。ママね、ミキにこれ、くれたんだよー」
「見せてもらっていいの?」
「うん。いいよ。昔のママだよ」
受け取って目を落とす。そこには確かに僕と未琴が肩を寄せ合うようにして写っていた。彼女の好きだったアーティストのポスターをバックに、モスグリーンのソファーに腰掛けた僕らの笑顔は真っすぐにカメラを見ていた。 その先に別れがあるなんて、微塵も感じていない、幸福の絶頂期の完璧な笑み。この写真は、そうだ、僕らが付き合い始めて最初に迎えた彼女の誕生日に撮った記念写真だ。
あの日、未琴は言っていた。
ねえ、弘貴。
今の私を愛してね。
未来は見ないで、今の私のそばにいてね。
未来を見据えて作る関係より、今を大切に歩んで、それがいつか未来に届くような、そんな恋愛をしよう。私はあなたより年上だから、あなたが考えつかない不安が時々あるけれど、だけどがんばるから。来年も、再来年も、そしてそのまた次の年も、ずっとずっと一緒に記念日を増やして祝っていこう。
約束だよ。

約束だよ、が聞いて呆れてしまう。
結局、未琴は僕の将来を考えて消えてしまったのに。馬鹿なやつだ。本当に、馬鹿なやつ。 「パパぁ?」 僕の顔を、未貴の小さな顔がのぞき込んだ。 「泣いてるの?」
おもちゃみたいな手のひらが、いつの間にか濡れていた僕の頬に触れた。染みるような暖かさに、嗚咽をこらえきれなかった。未琴が残した娘を抱き締めて、僕は今はもういなくなってしまった未琴と、残された未貴と写真の中にいる僕らのために声を殺して泣いた。


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