刃に心《第1話・出会いは闇討ちと共に…》-2
「ぴったりじゃないか」
「でしょ?」
「かと言って、役作りで実の兄を殺しにかかるなよ」
「いいじゃない。演劇部期待の新星、輝ける若き女優の霞様としては、役作りはリアルさが大事だと思うのよ」
疾風が本気で苦無を引こうかと思った瞬間…
「ご飯よ」
「「は〜い」」
いつもの如く母親の呼び声が合図となり、互いに苦無を納める。
相手は何事も無かったかの様に階下にある食卓へと降りていく。
疾風も寝癖のついた髪を掻き、傍らに置いてあった眼鏡をかけて降りていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
食卓には、白米、味噌汁、卵焼き、海苔の純和風の朝ご飯が並べられている。その前に座るのはこの家の住人達。
「ふあぁああ…」
大欠伸をする少年。改めて紹介『忍足疾風』、17歳、日ノ土高校2年。
「ボケッとしてないで早く食べなさい」
そう言って向かいの席に座っているのは母親の『しのぶ』、歳は…ゲフン…永遠の二十歳ということに…
「兄貴がボケッとしてるのはいつものことじゃん」
これは、朝の暗殺者兼妹の『霞(カスミ)』。16歳、同じく日ノ土高校1年。補足として演劇部所属。
「昨日の依頼は済んだのか?」
父親の『才蔵(サイゾウ)』。一家の大黒柱、歳は母のしのぶと同い年。
「ああ、落書き犯捕まえて、後始末も完璧」
「そうか、だが…」
「我が忍足の名を汚す様な仕事はするな…でしょ…聞き飽きたっての。ごちそうさま」
朝食を食べ終わった霞がうんざりとした表情で言った。
「う、うむ…」
才蔵は口ごもりつつ、白米を口に運ぶ。
「いってきます!」
全ての支度を済ませた霞が玄関で叫んだ。
「苦無は持った?」
By.母。
「持った」
By.霞。
「十字手裏剣は?」
「持った、忍者刀も持った。いってきます!」
普通の家庭では有り得ない確認。それもそのはず、この忍足家は先祖代々忍者。闇に生き、影となり國を守ってきた一族。時代が移っても、その実力は健在で、闇の業界の中でもかなりの高位置にランク付けされている。
現に父の才蔵は貿易会社で働きつつ、スパイ紛いの活動をしており、この普通そうな疾風でさえ様々な依頼を解決する『問題処理屋』としての顔を持っている。