ユートピア男-4
「寒い……」
?????
「今なんか言いました?」
「いいえ、何も言ってま―――」
「寒いって言ってんだよーー!!」
何?何?何?何?
怒鳴り声と共にぬうっとピアニストさんの背後に人影が。
「う、うわぁぁあ!!」
思わず悲鳴をあげて鞄も放り投げて後ずさりする。
その鞄を見事にピアニストさんがキャッチして、それから振り返る。
「………へ、変態!!シネーー!!死ね死ね死ね死ね!!死んで下さーい!!」
ピアニストさんは背後の存在、さっきの海パンさんを僕の鞄で殴打しまくる。
そして僕の鞄の中身は次々に飛散し始めて。
最後に見慣れない紙が二枚。
「何これ?」
殴打されている海パンさんは勿論、殴打しているピアニストさんも気づかないので、仕方なく僕がその紙を見てみる。
「ん?……楽譜……かな?」
……これっていうのはあれかな?
そう、恐怖の殺人犯になろうとしているピアニストさんの捜し物。
「あのー、ピアニストさん?」
未だ殴り続けているピアニストさんに恐る恐る声をかけてみる。
「はい?」
と、あっさり、そのかわり振り向きざまに一撃を与えて僕の方を振り向いたピアニストさんに楽譜を見せてみる。
「鞄から」
「………」
「………」
「あー!!そういえばあなたを運ぶときに拾って鞄に詰め込みましたっ!!」
……マジっすか?
一発殴りたい。
でもその相手の顔には返り血が。
殴りたい、でも殴れない。
「帰りますわ…。じゃあ」
「あ、私も」
あの海パン男をどうする?とはどっちも口にしない。
疲れた。もう時刻も八時を過ぎた。
さよなら海パン。
さよならピアニストさん。
もう二度と会いたくないよ。
とくにピアニストさんには、ね。
くたくたになって僕は校舎を出た。
「やっと帰れる!!」
それにしてもあの海パンさんはいったいなにをやってたんだろうか?
まさか本当に変態?
そんなことはどうでもいいか。
悪魔のようなピアニストさんと変態海パンさん、さよなら。
「お、俺はクロールの練習をして……いた…だけだ」