ユートピア男-3
「はい、しゅっぱーつ」
しゅっぱーつ!!
なんてのれるかっ!!
そのとき、廊下からヒタヒタと湿ったような足音が…。
「………しゅ、出発して下さいよ、優さん」
明らかに焦ったような顔でピアニストさんが頼んでくる。
「行ってくれたら、も、も、もう帰ってくれて構いませんよ?よよよ?」
よよよ?ってなんだよ。
いや、そんなことよりもあれですよ。
今帰っていいとおっしゃりましたか?
おっしゃりましたよね?
また来た!!デッドオアアライブ!!
楽譜を探すか、それとも足音の犯人を確認するか。
よーしっ!!帰るぞ、僕。
って待て待て。
もし足音が例のあれなら……。
デッドオアデッドオアアライブ!?
三分の一の確率じゃないか。
でもあれが本当にでるなんて。
「早く行って下さいよ、優さん」
微妙にイラついた雰囲気の声が僕の思考を邪魔する。
「待って下さい、ピアニストさん。今僕は必死に死ぬ確率を算出中で……」
「もう!!優柔不断の優さんごときに決められるはずがないでしょ!!行ってきて下さい!!」
ヒドッ!!
この人キツい。
バシッと傷つくことも平気で言ってしまう人だ。
ピアニストさん、ヒドすぎる。
思っていたのもつかの間。
「さぁ!!」
不意に突き飛ばされて廊下に飛び出る。
そのまま廊下にバッタリ。
うぅ…目、開けなきゃいけないよね。
仕方ないか…。
これで帰れる。
これで帰れるんだ。
「I'm go home!!って、うわぁぁあ!!海パン!?へ、変態か!?頼む、見逃して下さい、僕は女の子じゃないよー……」
僕を見下すように立ってる者は海パン男、しかもゴーグル装着中、さらに赤い水泳用の帽子も…。
時季わかってますかー??今、もう秋真っ盛りですよ?
食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋。
って、そりゃまあ水泳だってスポーツだけど。
それにしても何でこの人さっきから沈黙してんの?
「あのー?……もしもーし。海パンさーん?」
…無視されてる?
とりあえず起きあがってから、顔の前で手を振ってみる。
「すいませーん」
無反応。
目、開いてますか?
ゴーグルつけてるから分からないし。
「これは気絶してますね。これ隠すんで運んでもらえます?」
そんなことをしている間にピアニストが音楽室から出てきて僕に指示する。
やっぱりこれとか、隠すとか物だよね……。
それにしても立ったまま気絶って。
「なんで僕が…」
「だって私、これ触りたくないですもん」
そりゃごもっともな意見で。
「そう言えば僕、帰ります。確認したんで」
デッドオアデッドオアアライブの結果を思い出して僕は鞄を取りに音楽室に戻った。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい?あなたは私に突き飛ばされてでただけで、別にあなたがでたって訳じゃないですよ?」
「………さよなら」
出口にでようとするとはっぱりピアニストさんは出口に立ちはだかる。
「あれ運び込んでくれたら、帰っていいですよ?」
「………これもう独立しかないかな」
「どうしたんですか?」
「いや別に。何でもないです」
ピアニストさんと再び対峙する。
またコインでもだすんじゃないんだろうか?
おそるべし、ピアニストさん。なんだかそんなオーラを放ってるよ。