〜グラドルAの受難〜-5
「連続でいかせるのも一興だが、撮影に差し障りがあるかもしれんな」
「はおっ」
花びらを割って再び熱いかたまりが侵入してきた。指で深くえぐられたのだ。
ルキアのからだが衝撃から逃げるように伸び上がった。
「きれいに撮られたいとは思わんことだ。誰もそんなことは望んじゃいない」
耳元で悪魔のようにささやく。
「写真集を買った男どもがきみを見て何をするか……わかるだろ」
「……ひ……ぐっ」
灼熱の指がルキアをかきまわす。次第に快楽の波が押し寄せてきた。
「そうだ。君は彼らに犯されるんだ。欲情しろ。気をやってしまえ」
脂汗が流れる。ルキアは腕に歯を当て必死に喘ぎ声をこらえた。
また、いかされる。
それは恐怖に近い感情だった。プロ意識、演技・・・・・・偽りのベールが無情にもはぎとられる。ルキアの中のあるがままの自分、浅ましさが全て晒されてしまう。
こんな痴態をあかの他人に見られるなんて。今のルキアを……こんな自分を無感動に眺める全ての視線が痛かった。
そんなルキアの煩悶も知らず、凶暴さを増した指は粘膜の間をかけまわる。膣壁をひっかき擦られる。
あまりにも甘美な波は確実にせり上がってくる。逃げられない。もう耐えることもできない。
ルキアは観念した。
「…………?」
待っていたものは、来なかった。それどころか潮が引くように静まっていった。
ハッ、ハッという息づかいだけが響いていた。
それが自身のものだと気づいた時、淫楽の炎は遠ざかっていた。
ルキアは反問していた。
登りつめる寸前でおあずけをくった自分がどんな顔をしているのか。
黒眼鏡の奥の瞳に尋いてみたかった。
「まだ撮影中だ。このへんにしておこう」
嶋村のプロとしての生真面目さが垣間見えた瞬間だったが、それはひどくルキアを傷つけた。
これではルキアの一人相撲ではないか。
気がつくと涙があふれでていた。みじめだった。
太い指がルキアの目もとを拭う。すかさず唇を奪われた。
「ん……ムゥ……グ」
お互いを白い糸でつなぐ濃厚なキスだった。
消えかけた炎に再び全身を焼かれる。
「いい女だな、君は」
嶋村の笑みがせめてもの救いだった。
撮影は続けられた。スタッフの誰一人として先ほどのことを気にする者はいない。
いつの間にか嶋村は眼鏡をはずしていた。ルキアは彼の目に魅き寄せられるように大胆になっていく。
精神的に追い詰められて本性を剥きだしにされた。その負い目がルキアをいつも以上に積極的にさせた。
ルキアは無意識のうちに嶋村を求めていた。彼に褒めてもらいたい、認めてもらいたい。そんな気分になっていた。
このとき既にルキアは嶋村の罠に絡めとられていたのかもしれない。
こうやって信頼関係、いや主従関係を築いていくことをルキアは後になって知った。
接写は淡々とそれでいて一段と熱気を帯びて続けられた。
治まっていた下半身の疼きがむくむくと身をもたげた。
撮影は終了した。スタッフたちが方々に散り、後片づけをはじめている。
バスローブに身を包んだルキアは、身の置きどころもなくたたずんでいた。
向田は未だ合流してこない。返信はあいかわらずなし。
「このあと、時間あるんだろ」
素早く腰にまわされた手を振りほどく勇気はルキアにはなかった。
お決まりのパターンだ。おそらくマネージャーの向田も承知のことなのだろう。
あまり気乗りはしないが、火照ったからだをもてあましているのも事実だった。
人々のあいだを通り抜けていく。皆見て見ぬふりを決め込んでいる。
どこからともなく声が漏れてきた。
「食い詰めたアイドルはたいへんだな。先生のおもちゃにされて・・・・・・」
「だって、もうそんなに若くないでしょ」
「もう恥も外聞もないんだよ。だってあんな・・・・・・」
精神が蝕まれていく。こんな思いを今後も抱いたままこの仕事を続けられるのか。
立ち止まっていたルキアの手を嶋村が引いた。
幻聴だったのか。あたりはすでに閑散としており人間もまばらだ。
そのときだけはやさしく感じた嶋村の掌をルキアはまるで幼子のように握り返した。
個室に連れ込まれるとベッドの上に押し倒された。
ルキアはすっかり落ち着いていた。部屋を見渡す余裕もあった。
連れ込み部屋にしては清潔で、簡素だがそれなりの調度品もそろっている。
ただ天井の照明が気にかかった。
視界を光が支配した。まぶしげに光源を見ると嶋村がカメラを手にしていた。
「仕事は果たした。ここからが俺の本番だ」
薄暗い部屋の中から若い男が湧いて出た。志崎だ。既に全裸で待機していた。
「ああ……そういうこと……?」
ルキアの声は届かない。裏切られたと思ったのは、少しは期待していたのだろうか。
志崎が屈み込みルキアの上に覆いかぶさってくる。