底無しトンネル物語-1
僕の住んでいる町には『底無しトンネル』と呼ばれる古いトンネルがあった。
今はあまり使われていないが、つい最近になって新道ができる前まで町のみんなが使っていた有名なトンネルだった。
僕も中学生の頃は毎日このトンネルを使って学校に通っていた。
トンネルの中は緩いSの字に曲がっており、照明は薄明るいオレンジ色をしていて不気味だった。またトンネルの途中に照明の切れているところがあり、あたかも先が真っ暗闇な底無しの道を歩いているような、そんな錯覚からこの名前がつけられたらしい。
しかし、僕が高校にあがると共にトンネルを迂回する新道が完成したため、『底無しトンネル』のある道は旧道となり、今では新道を使ってとなり町の高校に通っている。
これからする話は、僕が中学の頃に地元で起こった事件と底無しトンネルとの奇妙なめぐりあわせを綴った物語である──
中学二年の春。
春休みが明けて、久しぶりに袖を通した制服は少し小さく感じた。
始業式が終わりクラス変えが発表されると、それぞれ新しいクラスを受け持つ先生が教室にやって来る。
僕達のクラスには新任の若い男の先生がやってきた。先生は今年初めて僕達クラスを担当する新米教師である。
黒板に薄く汚い字で『山下……』と書いてよろしくとお辞儀した。次にクラスの生徒が一人ずつ軽く自己紹介をする。今年は前に同じクラスだったミサトやタケルもいたので嬉しかった。
そして、大抵どのクラスも真っ先に委員と係決めが行われる。
僕は新聞係りになった。新聞係りとはクラスや学校の出来事や行事、学校周辺や町のイベントや事件を月に一度簡単に模造紙にまとめて、教室の後ろに掲示する仕事である。
自分の記事が掲示されることには少し気恥ずかしくて抵抗もあるが、ミサトやタケルそしてミサトの友達の四人での活動なので心強かった。
僕達、新聞係りは放課後に居残るように言われた。
しかし、ホームルールが終了して一時間が経ってしても先生は現れなかった。
しだいに真っ赤な夕陽が教室に差し込んでくる。
僕がカーテンを閉めようと立ち上がった時、ようやく先生がやってきた。
小さなダンボール箱を携えている。
その中には人数分のカメラが入っていた。
「このカメラで町の様々な景色を撮ってきてほしいんだ。僕はこの町に来てから日が浅いし、クラスには転校生も何人かいるからね。少しでも早く町のことを覚えてもらえるようにさ。」
先生はそう言うと僕達に一個一個カメラを手渡していく。
一瞬、先生の腕にはめられた高価そうな銀の時計が夕陽に反射して眩しかった。
突然、カメラを渡されて唖然としている僕らを尻目に先生はじゃあよろしくと言って教室から去った。
どうしようか?とミサトが切り出した。「まずは海側の町と学校のある山側の町に担当を分けたほうが良いよね」
「僕とミサトは海側に家があるし海の方を担当しますか」と僕は妥協案を出して、みんなはそれに納得した。
「じゃあ俺たちは山側か」タケルはしぶしぶ納得した。
その日はそれでお開きになった。また週末にでも集まろうと。