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全てを超越
【コメディ 恋愛小説】

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全てを超越『1』-2

「イチタは真面目だからなぁ」
「郭と違ってな」
「お前はいつも一言多いんだよ」
「僕は常に事実のみを言っている。そう感じるのは、お前に心当たりがあるからだ」
「うぐ……」
本当にこいつらって、良いコンビだわ。
こんな奴らと知り合って、この前でちょうど一年が経った。出身も学部も全然違う俺らが知り合ったのは、本当に偶然の産物だ。
入学前の春休みに、教習所に通い始めた俺はたまたま同じ日に通い始めた郭と泰明と友達になった。三人とも同じ大学だったので、仲良くなったのは必然だったのかもしれない。
「お……」
ラーメンのスープを一滴残さずに飲み干した郭が俺の後ろの方に移した目を止めた。
「ふむ、文学部の女子達か」
気づいたように、泰明も目を移す。
つられるように俺も移した。
視線の先には男子の山、山、山。その山の中心に文学部の女子達がいる。近隣の大学でも噂になる程、文学部の女子のレベルは高い。うちの大学は総じて高いけど、文学部は特に……らしい。
「人の彼女に手ぇ出すなよな」
郭が一言呟いたのが、俺の耳に届いた。泰明も同じみたいだ。
「ふむ、佐伯はイチタと同じ文学部だったか」
「あぁ、去年はいくつかの講義が一緒だった。最も、専攻が違うから、そこまで会ってはいないけどな」
郭の彼女、佐伯胡桃は俺と同じ文学部で米英文学専攻の人だ。名前通りの愛らしい容姿をした人で去年から付き合ってる。
ちなみに俺は西洋史学専攻。
「だったら行ってこいよ」
「見知らぬ男から恋人を守るのも、男の努めだと、僕はおもう」
「……そうだな!」
焚き付け安っ!! 一言二言ですぐにやる気になっちゃいやがった。鼻息を荒くして、郭は男の山に出撃していった
「単純だな」
「まぁ、郭だしな」
そんな単純な郭くんは集る男たちを千切って投げて、彼女の手を取った。
「「おぉ〜」」」
郭、お前はお調子者で楽観主義者ではあるが、漢でもあるな!
「ありがとう、くるちゃん」
佐伯は郭の隣に座って開口一番ほんわかとそう言った。彼女が郭を信頼してるのが一発でわかる表情で。
「見知らぬ男から、恋人を守るのも男の努めだと思うからな。当然のことをしたまで……」
「それは僕が言ったセリフだ。そのまま引用するな」
「そうだぞ、郭」
「うぐ…」
「あはは」
いつもの郭イジリに、佐伯が微笑む。
「そ、それにしても。いくらこの学校、女子率が高いからってありゃあないだろう」
いじられた郭が事態打開に別の話題を出した。そう来るか。
「寂しいんだろう。彼女がいないから」
「そう、郭と違ってな」
モテる泰明はともかく、モテない俺の言葉の成分は主に『僻み』と『妬み』が半々ずつ配合されてる。
「いないからって八つ当たりすんな。だいたい、泰明はこの前も告られてたじゃねぇか」
「なにぃ!?マジか!!」
まさか泰明、お前まで裏切るなんて……。
「タイプじゃなかったから断った」
「泰明、やっぱりお前は親友だ」
泰明の手を両手で堅く握り、俺は言った。
「わかったから離してくれ。鳥肌が立つ」
「そうね。私としても、君がその手を離して、男色でないと弁明して欲しい気分。そうでないと、このままじゃ私の精神が奈落の底に落ちる事になるわ」
………あれ?
聞き慣れないけど聞いたことはある銀の鈴がなったかのようなこの透き通った声が背後から………。
ゆっくりと、振り返る。
そこに立っていたのは、見た目にも麗しい長身の美女。
「あ、朝霧?」
「確かに私は朝霧 鈴(すず)。そういう君は夕凪 一太郎くんで間違いないわね」
間違いないわね……って。
「いや、知ってるじゃん。お互いに」
「念の為よ」
全く意を介さず、朝霧は言う。
彼女こそが、冒頭で話した文学部一の才媛にして我が大学トップクラスの美女。そして、クイーン・オブ・無表情。
彼女が笑った表情も、怒った表情も、悲しそうな表情も見た人間はいない。風の噂じゃ、彼女の両親ですら数えるほどしか見たことがないと言う。どこまで本当かは知らんけど。
要はそんな『噂』が立つほどの徹底した無表情っぷりな訳だ。


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