決意のマーマレードを抱いて-1
「それじゃあ僕はそろそろ行くよ」
僕はさも自信ありげに笑って見せた。
村の長老とサラの父がわざわざ見送りに来てくれたからだ。
「アークドよ。くれぐれも気をつけるんじゃぞ。無理をせぬようにな」
長老はアゴに長く伸びた白ひげを撫でながら目を細めていた。この仕草はいつもの癖だ。
「わかってるって、エロじい」
「ほほっ。相変わらず減らず口を叩きおる」
この長老の家のあらゆる箇所にエロ本が隠されている事は、僕だけが知っている。
以前、口封じとして読ませてもらった事があるが、このじいさんの趣味を理解できなかった、というのが率直な感想だ。
「アークド君。すまない。結果的に私達は君に大きな重荷を背負わせてしまったようだ」
サラの父は両腕を僕の肩に乗せ、何度も頭を下げた。
「何言ってるんですか、おじさん。僕は重荷なんか持ってませんよ」
「本当にすまない」
「僕、前から旅がしたかったんです。それに、僕は一人じゃありません」
そうだ。僕はいつだって一人なんかじゃない。
「サラも一緒に行きますから…」
そう。アイツは少なくとも僕の心の中にいる。
「アークド君…」
「わかってますよ。僕は必ず救い出してみせる。サラを、僕の大切な人をね」
「頼む」
「もちろん」
強く頷き、そろそろ正午だからと、僕は村を出る。
だが数歩進んですぐに呼び止められた。
「アークドよ」
「なんだよ、じいさん」
「もう15なんじゃから、『僕』はどうかと思うがの」
「余計なお世話だエロじい!」
「ほほっ」
「あ、そうだ。武器くれよ。何も持ってなきゃ危険だろ?」
「いや、おぬしにそんな物は必要ない」
「ほら、村に代々伝わる霊剣とかあるだろ?」
「残念じゃがそんな都合の良いものは、ウチの村には無い」
「…マジ…ですか」
「…マジじゃ」
結局僕は武器も持たずに村を出た。
これから長い旅が始まるというのに。