おれらと若先生の夏休み【計画】〜若先生のとびっきりの話〜-1
──ゆとり教育廃止──
低下の一途をたどる学力、そしてモラル。
悪化する治安、増えるイジメ。
最早、大多数の教師がゆとり教育=甘やかし教育と捉えていた。もちろん生徒も。
必死になるのは親ばかり。
その親も所詮ゆとり教育の産物。躾の仕方も分からぬ故の誤った教育。
当然、曲がってゆく子供の心。
結果、増える犯罪・自殺。
…日本の未来が危ない。
我々、政府は全ての教育機関に「指導法改革書」を配布。
重要事項に『愛のムチを認める』と記。
体罰を教育と認めた。
教員採用の評価は、「生活指導能力」のウエイトが大きく増えた。
──5年後──
大きく減った犯罪、回復した学力。
我々は結果を出した。
そして、しばらくの間はこの方針を維持することを発表する。
これで日本の未来は安泰だろう。
しかし現実は──
彼ら教師達もゆとり教育を経て大人になっている。
愛をもって生徒と接することなど不可能だった。
機械的な体罰……
軍隊のような指導……
治安がよくなるのは当たり前だ。
子供の「好奇心」を殺しているのだから。
──これはそれから3年後
そんな政府に反発した若い教師と、その生徒達の物語──
……今年はいい粒が揃った。
必要以上の面談で個々の性格はしっかり把握した。
一番戦力になりそうなのが鈴木直人。うちのクソ教師共に強烈な反発心を持っている。冷静で頭もいい。クラスでは大人しくしているが他の生徒を引っ張るだけの器もあると見ている。
鳴海慎太郎は鈴木の親友。人に流されやすくて調子者だが、土壇場での機転がきく。その機転で何度も体罰を逃れている。こういうやつは何かと使える。
キーマンが大野健児。私が見てきた生徒の中で最高の頭脳を持っている。コンピュータにも詳しく、クラスの司令塔になる存在。そして戦争とかクーデターとかに興味があるようだ。まさにうってつけの男なのだが、親が政府の役人なのが問題。計画に協力してくれるかどうか……
私はある日の放課後、この三人を呼び出した。
今日もまたダルい一日が終わった。
……と思ったら帰りのHRで、俺と直人と大野の三人が担任の若林に呼び出された。
今は直人と一緒に職員室に向かうところ。大野も誘ったら「先に行ってて」と言われた。
……嫌いじゃないんだけど、くえないやつだ。
「……あいつ、掴めない性格してるよな。」
どうやら直人も俺と同じことを考えていたようだ。
「ホントだよ。」
……俺達は小学校から一緒にいるから、大野の色々な面を見てる。
とにかく、気分的にムラのあるやつだ。