わたしと幽霊 -声--1
…いきなりのコトだった。
下校中にて――
歩道橋の通路のど真ん中。
あたしの足が地面に縫い付けられたように、唐突に動かなくなる。
「あの…真っ昼間から影縫いはやめてください」
唇は動くので、前に立つ高谷さんの背中に向かって呟いた。
幸い、あたしの他に歩道橋を渡っている人がいなかったからいいけど
いきなり何??
「…………」
高谷さんは無言で立ち止まり、何やら歩道橋の降り口辺りをじっと見てる。
「もしもーし」
返事を待つあたし。
やがて高谷さんはくるりと踵を返し、
「引き返すぞ」
理由も言わず一人でUターンしていこうとした。
ま、待ってよっ。
あたしは焦る。
「あの…動けません」
あたしは笑顔でぎしぎしと首を捻った。
「ああ悪い。忘れていた」
忘れないでよ、もぅ…。
その彼の言葉が鍵になってたらしく、急にふっ、と足が軽くなる。
…首を捻った、変な態勢のまま。
ぐらり、と変な風に傾く体にイヤ〜な予感が残る。
――視界に広がる青い青い空。
あれ?あたし上向いてたっけ…
ふとそう思った瞬間、
重い音と、後頭部に鈍い痛みを感じ――
あたしの意識は、抗いようのない強い力で
闇に吸い込まれていった。
うぁっ……!
な、何?!
喉が…おなかが…全身の至る所が痛い。
ううん、痛いなんてもんじゃない。
生きたまま、内側からじわじわ溶かされていくような…
く、苦しぃ……!
あたしは赤く染まった視界の中、冷たく堅いコンクリ床に横たわって空を見上げていた。
一体この体に何が起きてるの?!
必死で首を捻り、周りの様子を目で…
(………!)
目の前に、人の顔が飛び込んでくる。
横たわるあたしにすがりつく若い女性の、涙に濡れた顔。
耳も聞こえない…無音の世界の中で
虚ろに彼女の唇を眺めた。
タカヤクン ヒトリダケイカナイデ。
タカヤクン…?
誰だっけ…よく知ってる名前。
タカヤ…タカヤ……?
あぁ…高谷さん、ね…。
熱い…体がひたすら熱い。
力が抜けていく。
あたしの手を握る彼女の手を握り返す力も、もう――
赤い視界がどんどんとぼやけ、少しずつダークアウトしてゆく。
やがて、何も感じなくなっていた。
痛みも熱さも空の色も。
――漠然と感じる。
今、ここで瞳を閉じれば、もう二度と目を開く事はないだろう、と。
体中の力が地面に吸い込まれていくのを感じながら――あたしは…
…息を止めた。