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わたしと幽霊
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わたしと幽霊 -心--4

お風呂上がりのあたしは、さっきまでの不機嫌はどこ吹く風。
タオルを頭に巻いてオレンジジュースをパックから直飲みしながら、部屋のドアを開けた。
うん、やっぱ風呂上がりは牛乳よりオレンジジュース!
あたしはとすん、とベッドに腰掛ける。
学制服姿の彼は、部屋を出ていくときと同じくデスクの椅子の上。
手には何か持ってて…
遠くから覗き込み、ああ、と思う。
あの写真、見てたんだ…

高谷さんは、それからもずっとその姿勢のままだった。
普段はヤな感じの人だけど、あぁいう姿だけは素敵だなぁと素直に思う。

――と、クッションを背に沈みながら膝の上に雑誌を開いて、ぼんやりと後ろ姿を眺めていた。
「お前…完全に忘れてるだろ…宿題」
背中を向けたまま、高谷さんはやれやれ、といった様子で椅子を立った。
「あっ…」
今日は色んな事があって、何だか物忘れが激しくなっちゃってる。
「あ、ありがとっ。完璧に忘れてた!」
あたしは慌てて机に向かってノートを開く。
今日は数学だけだったかな。
そーいえば明日、古文の小テストがあったよーな…

……………。
えっと……。

斜め後ろから、あたしの手元をじっと覗きこむ視線が気になり、ぎぎぎっと首を捻った。
「…何で凝視してるの?」
「失礼な。俺はお前の家庭教師だ」
…………。
いきなり訳の分かんない事を言い、なぜか眼鏡の縁がきらりと光ったりする。

……頼んでませんから。

「お前の現段階での学力の甘さを自覚させてやろう。まぁどうせ、お前が俺の記憶を繋ぎ終えるまで暇なんだ。暇潰しさせろ」
……なんか目茶苦茶な事を言われてるような気がするのは、あたしだけじゃないよね…。
「…あたし頭悪いよ?責任重大だねっ」
ちょっと嫌味を言ってみたりした。
「あぁ、大抵誰でも最初はそう言うんだ。バイトでやってたから慣れている」
家庭教師のバイト?高谷さんってもしかして、秀才?
確かに頭良さそうだけど。
「こう見えても、大概の馬鹿を矯正してきたんでな。ついて来いよ?」
そう言い、イジワルそーな笑みを浮かべて見下ろされた。つか馬鹿って…。
うわぁーん…恐いよぉ。

―――でも。
家庭教師のバイトをやってた、ってのは本当みたい。
教えることに慣れたリズムで、無理させず、自分の頭で答えを導けるように巧く引き出してくれる。
それに、スパルタ系を想像してたけど…普段よりずっと丁寧で優しい感じ。
「すごい…ぶっちゃけ、先生より分かりやすいよ?」
あたしは本心からそう言った。
「そうか?そう言われたのは初めてだな。波長が合ってるんだろう。なんせ背後霊だしな」

(―――あ…)
何だか本当の家庭教師が横にいるつもりになっていたあたしは、その言葉ではっとする。
あたし以外には認識されない存在であるという事を忘れそうになってた。
幽霊だったよね…そだよね。
…ナゼか小さな寂しさを感じ、机に置かれた彼の大きな手を見つめた。
一人っ子だからかな…何だかお兄ちゃんができたような気がして、ちょっとくすぐったい感じがしてた…

「お前の兄貴?冗談じゃないな」

その時、ふふん、と鼻で笑いながら嫌味ったらしい口調で……ってか……

「あぁぁーー!!また読んだでしょッ!!嘘つき!!」


悲痛なあたしの叫びが、はや午前に回ろうとする静かな夜長に響き渡った――…


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