わたしと幽霊 -声--4
「…………」
あたしは何も言えず、おなかに手を当てて俯いた。
「お前が何を考えているか大体予想がつくが、まあそんなとこだ」
彼は至極あっさりと言った。
もう…彼の中では終わった過去なんだ。
あたしは、落ち込んでた気持ちをぎゅっと引き絞る。
あたしがズルズル余計な事を引きずっちゃダメだ。
――笑わなきゃ。
「高谷さんはオトナだねっ♪」
精一杯笑ったつもりだった。
「当然だろ。お前らみたいに制服着てメンタルでドキドキなんてやってられるか」
やれやれ、といった口調の高谷さん。
いつもの、嫌味ったらしい彼。
「自分も制服着たままなのにね〜?」
言ったあたしは何だか可笑しくなって、くすくすと笑う。
「…まぁ、そうだが」
ムッとした顔がカワイイかも。
「ああ、そういえば」
「え?」
思い出した、というより今言おう、というタイミングで高谷さんが切り出す。
「今日、お前が脳震盪起こした時な。転がってるお前を放置しておくわけにもいかなかったんで、悪いとは思ったんだが…」
あ、あの時ね。
もしかしておんぶして連れて帰ってくれたとか?
うわ、やっさし〜!
「体を乗っ取らせてもらった」
うん、高谷さん世話見よさそうだも…
……乗っ取った!?
「な…何それ!」
「あーいや、言い方が悪かったな。乗り移った。」
つか意味同じだから!
「何怒ってるんだ?土埃まみれで転がってるよりいいだろうが。
重苦しいお前をトロ臭い足で家まで運んだんだぞ」
っきー!!言うに事欠いて豚足ですって!
「そこまでは言ってないだろう」
また人の心読んでるし!
あたしは抱き締めたビーズクッションの影からジト〜ッと彼を睨む。
「…ちなみに今お前が考えている、そういう類の事は一切しとらん。というか興味ない」
うわぁ…なんかトドメ刺された心境。
まぁ…色々と腑に落ちない点はあるけど、彼はよかれと思ってやってくれたんだし。
「一応…ありがと」
「礼も素直に言えんのか」
「素直じゃないもん」
あたしはふてくされてベッドにぱたん、と倒れこむ。
背中を向けて。
…いいタイミングだから大丈夫、解らないハズ。
夢を話し終わったあたりから徐々に疼き始めていた痛み…
あたしは、耐え切れなくなってきた痛みに、ぐっと顔を歪ませた。
ヘタに考えたらバレるから…空っぽ…空っぽ…
ほら、いつもアタマ空っぽじゃん、あたしってさ♪
…うぅ……
歯を食い縛る。
早くおさまってよ…
「あ、そだ」
あたしは寝転んだまま、いつもの口調で聞く。
「最初ね、歩道橋で止まったじゃない?あれ何だったの?」
そう、すっかり忘れてたけど。
何だったのかな??
「ああ…あれな。ちょっとタチの悪い奴が下にいたんだ。あいつに憑かれたら、たまったもんじゃないぞ」
…その声にあたしはぎくりとする。
高谷さんの声が、すぐ後ろから聞こえたから。
「あいつって、知ってる幽霊サン?」
彼がベッドの脇にもたれかかったのを感じる。
「…まあな」
歯切れの悪い声。
まだ痛みはおさまらない。