クレハの大樹。-1
突然の別れはこんな秋の寒い夜だった。
今思い出しても、あの夜のことは忘れられない。
大切な人が天国へ旅立ってしまった夜。
その夜、ジョナサンはまだ5才になったばかりだった。
「おかあさん……」
ジョナサンは母との別れを理解できずにベットで泣いていた。
「おかあさん…起きてょ…」
もう二度とその瞳を開けることはない。
優しく抱き締めてくれることも、
愛がつまった暖かい言葉をかけてくれることも、
ジョナサンの名前を呼んでくれることも…
「おかぁさぁん…」
ジョナサンはふさぎ込んで、くる日もくる日も泣いていた。
「おかぁさんはもう僕のそばにはいないんだ。」
認めたくない悲しみが胸を締め付けた。
もっと愛されたかった。
抱き締められて甘えたかった。
ジョナサンは空っぽの心をヒリヒリさせながら、目が紅くなるまで泣いた。
それを見かねた父、ラッシュは思い出したかのように一冊の絵本を書斎の一番奥から取り出してホコリを払った。
『クレハの大樹』
表紙には古ぼけてくすんだ字でそう記されていた。
その夜ラッシュはジョナサンを寝かしつけた時のことだ。
「ねぇ。お父さん。
なんで人は死んじゃうの?もうおかあさんは帰ってこないの?
どうして僕を置いてきぼりにしちゃったの?
ねぇどうして……」
思い出すだけでもジョナサンは我慢できずに大粒の涙を瞳にためていた。
「いいか。ジョナサン。
かぁさんはもう父さんやおまえと同じ世界にはいないんだ。
だけどいなくなったわけじゃないんだよ。」
と古びた絵本『クレハの大樹』を取り出して読んで聞かせた。